本と映画と政治の批評
by thessalonike4
カテゴリ
チベット暴動と北京五輪
ガソリン国会と後期高齢者医療
新自由主義と福祉国家
ワーキングプアと社会保障
山口県光市母子殺害事件
福田政権・2008年総選挙
米国大統領選挙
田中宇と世界金融経済
イージス艦衝突事故
イスラエルのガザ侵攻
岩国市長選挙
防衛省疑獄事件
大連立協議と小沢辞任
民主党 ・ 2007年参院選
安倍政権
憲法 ・ 皇室
戦争 ・ 昭和天皇 ・ 靖国問題
韓国 ・ 北朝鮮 ・ 拉致
共謀罪 ・ 教育基本法改正
村上世彰インサイダー事件
オー・マイ・カッシーニ
ネット市民社会
丸山真男
辺見庸
奈良紀行
その他

access countベキコ
since 2004.9.1


















映画「ダ・ヴィンチ・コード」(2) - 米国による21世紀の新しい聖書
b0087409_12171823.jpg「ダ・ヴィンチ・コード」の世界を堪能する上で、この映画は単に一つのパーツに過ぎない。基本は小説で、そして奥には「レンヌ=ル=シャトーの謎」があり、その間に無数の解説本やら関係書の出版物の山があり、それらを読めば読むほど歴史的な想像力が膨らみ、豊かな世界を手に入れて遊泳することができる。一人一人がティービングの薀蓄に近づき、縦横無尽にキリスト教史をハンドリングし、新しい歴史認識の地平を眺望することができる。「ダ・ヴィンチ・コード」のデリバティブとして、その解説に最も成功していたのは、荒俣宏が案内人を努めたフジテレビの5/20の特別番組で、あの番組を見た方が、映画そのものを見るよりも「ダ・ヴィンチ・コード」の世界をよく理解できるのではないかとさえ思われる。牧瀬里穂がマグダラのマリアを演じたショートフィルムが挿入されていて、映画の中のマグダラのマリアよりも印象的だった。「ダ・ヴィンチ・コード」の本当の主役はマグダラのマリアだ。



b0087409_12173428.jpg「ダ・ヴィンチ・コード」について、フランスやイタリアの人々はどのような感想を持っているのだろう。私はその点に興味があるが、これまであまり情報がない。評価について暗中模索なのだろうか。私から見て、思想としての「ダ・ヴィンチ・コード」の特徴は二つあり、一つはそれがポストモダンのキリスト教史であるということと、もう一つはそれがアメリカンのキリスト教認識であるということである。「ダ・ヴィンチ・コード」がキリスト教の解体脱構築の営みである問題については前に述べた。正確には、「ダ・ヴィンチ・コード」がと言うよりも、そのタネ本である「レンヌ=ル=シャトーの謎」を始めとする最近のキリスト教研究そのものがそうであり、「ダ・ヴィンチ・コード」は単にその普及版であるに過ぎないが、キリスト教文化圏の人々が自己認識の大きなモデルチェンジに遭遇しつつある。死海文書以来の研究成果は、三位一体説の虚構を完全に突き崩し、虚構を受け入れてきた信仰の伝統を相対化させつつある。

b0087409_12174667.jpgそれは同時に人間イエスの再発見であり、カリスマイエスの再評価でもある。私の想像だが、ポストモダンとしての「ダ・ヴィンチ・コード」は、ヨーロッパの人々にとってもそれなりに積極的に受認できるものに違いない。で、もう一つのアメリカ主義のキリスト教認識の問題だが、この点についてはどうだろうか。私は、今回のダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」は、現代米国によるヨーロッパの捕捉と言うか、ある種の思想的な操縦と支配の意企を感じ取るのだが、そういう不吉な感覚は欧州の人々にはないのだろうか。「インディ・ジョーンズ」のシリーズにも若干そういう趣はあった。イラク戦争のときに、ブッシュ政権が開戦に反対したフランスやドイツを「古い欧州」と呼んで侮蔑を加えたが、そういう政治思想を媒介する宗教観、キリスト教観を米国人は持っていて、言わば欧州に対してキリスト教解釈の主導権を主張しているようなところがある。キリスト教に新しい価値と意味を加え、それを世界に宣教し普及するのは米国だという自己認識。

b0087409_12175565.jpgそれは具体的には二つの側面があって、一つは最近の米国の異常に原理主義的なキリスト教の台頭と浸透であり、イラク戦争前後のブッシュ大統領演説の宗教修辞と大統領選挙で見せつけた教会勢力の強さ(ジーザスランド)である。ヨーロッパの人々から見れば、米国内のキリスト教の現実は異常で不気味だろう。歴史の年月を踏み固めた人間理性の安定感がない。もう一つの側面は過激な新自由主義の資本主義で、米国の生き方は欧州のマイルドな方向性とは全く違う。米国にとっての信仰は、原理主義的なキリスト教と原理主義的な資本主義の二つである。ダン・ブラウンの中には原理主義的なキリスト教の性格はなく、その方面はポストモダンで欧州に接触接合しているのだが、原理主義的な資本主義という点では、まさにビル・ゲイツそのものである。ダン・ブラウンは文芸世界のビル・ゲイツだ。獰猛に稼ぐ。宗教史をカネにする。「ダ・ヴィンチ・コード」はMS-DOSであり、WINDOWSなのである。「天使と悪魔」がMS-BASICだ。

b0087409_1218565.jpgそして、「ダ・ヴィンチ・コード」は、実はこれは21世紀の聖書なのである。新しいキリスト教解釈であり、米国が世界に普及させるキリスト教の聖典なのだ。その意味するところは、欧州はキリスト教の解釈権と布教権を失ったという宣言であり、21世紀以降は米国がバチカン教会となって世界をキリスト教化(新自由主義化)するという宣告である。欧州否定であり、金儲け思想の絶対化である。実際に、狭い宗教世界でのキリスト教という問題で限って事態を見ても、「ダ・ヴィンチ・コード」の影響は本当に大きくて、この本でキリスト教の知識を得る人間が世界中に何千万人もいるはずだ。キリスト教に興味を持っていなかった人々がキリスト教に興味を持つ。持たざるを得ない。「ダ・ヴィンチ・コード」は古いキリスト教を否定しつつ、キリスト教に関心の無かった人々にキリスト教の知識を与えている。イエス・キリストを教えている。エバンジェライズしている。新しいキリスト教世界を作っているのだ。「ダ・ヴィンチ・コード」は米国が欧州に仕掛けた戦略的思想兵器である。

「ダ・ヴィンチ・コード」は米国による新しい聖書だ。
b0087409_12181528.jpg

[PR]
by thessalonike4 | 2006-05-24 23:30 | その他
<< 教育基本法改正の政治(都教組分... 昔のIndexに戻る 映画「ダヴィンチ・コード」(1... >>


世に倦む日日
Google検索ランキング


下記のキーワード検索で
ブログの記事が上位に 出ます

衛藤征士郎
八重洲書房
加藤智大
八王子通り魔事件
吉川洋
神野直彦
サーカシビリ
敗北を抱きしめて
苅田港毒ガス弾
道義的責任
可能性の芸術
青山繁晴
張景子
朱建栄
田中優子
小泉崇
アテネ民主政治
二段階革命論
影の銀行システム
特別な一日
ボナパルティズム
鎮護国家
三田村雅子
小熊英二
小尻記者
古館伊知郎
本村洋
安田好弘
足立修一
人権派弁護士
反貧困フェスタ2008
舩渡健
エバンジェリズム
ワーキングプアⅢ
新自由主義
国谷裕子
大田弘子
カーボンチャンス
秋山直紀
宮崎元伸
守屋武昌
浜四津代表代行
江田五月
馬渕澄夫
末松義規
平沢勝栄
宮内義彦
田勢康弘
佐古忠彦
田岡俊次
末延吉正
横田滋
横田早紀江
蓮池薫
金子勝
関岡英之
山口二郎
村田昭治
梅原猛
秦郁彦
水野祐
渓内譲
ジョン・ダワー
ハーバート・ノーマン
B層
安晋会
護憲派
創共協定
全野党共闘
二大政党制
大連立協議
民主党の憲法提言
小泉靖国参拝
敵基地攻撃論
六カ国協議
日米構造協議
国際司法裁判所
ユネスコ憲章
平和に対する罪
昭和天皇の戦争責任
広田弘毅
日中共同声明
中曽根書簡
国民の歴史
網野史学
女系天皇
呪術の園
執拗低音
政事の構造
政治思想史
日本政治思想史研究
ダニエル・デフォー
ケネー経済表
マルクス再生産表式
価値形態
ヴェラ・ザスーリッチ
故宮
李朝文化
阿修羅像
松林図屏風
菜の花忌
アフターダーク
イエリネク
グッバイ、レーニン
ブラザーフッド
岡崎栄
悲しみのアンジー
トルシエ
仰木彬
滝鼻卓雄
山口母子殺害事件
偽メール事件
民主主義の永久革命
ネット市民社会