昨日の動きの中で面白かったのは、午前11時から村上世彰が会見発表したインサイダー疑惑の釈明に対して、検察側がそれを悉く反論する形の捜査情報が午後に出て、一般市民には非常にわかりやすい形で事件の構図が浮き彫りになったことである。ある意味で、法廷での被告人と検事の両方の主張を先取りして見聞きできた印象がある。特にNHKの7時のニュースがわかりやすかった。わかりやすいと言うのは、検察側が説明する事件の概要がという意味だが、NHKはわざわざ放送枠を午後8時まで延長して、容疑の事実を図表化して説得し、会見映像の重要部分をカットして流しながら、その主張に逐次反論、村上世彰の「法律違反などするつもりはなかった」とする自己正当化の弁明を覆していた。ライブドア事件のときもそうだったが、特捜出身の元検事など出演しなくても、やはりNHKが一番わかりやすい。概念整理がシュアでコンパクトだ。NHKの人間が優秀なのか、NHKだけには特別のリーク体制が敷かれているのか。
私の関心は、堀江貴文と村上世彰のどちらが先にマネーゲームを持ちかけたのかという点にあったが、昨日の報道で凡そ全容が明らかになって、一昨年の9月15日に村上世彰が堀江貴文の方に話を持ちかけていた。村上世彰は「ニッポン放送、いい会社だから、株買いましょうよ、と言っただけ」と声を弾ませて強調していたが、普通に聞く者はそんなゴマカシには騙されない。株価を吊り上げるためにライブドアに買占めを勧めたのであり、そして11月8日にはライブドアは村上世彰と会ってニッポン放送株大量買付の意向を伝えている。毎日新聞の
記事によれば、9月15日の時点で村上世彰は堀江貴文に対して、「村上ファンドは、ニッポン放送株を17%持っている。LDが3分の1を買い付ければ過半数となり、同放送が手に入る。ひいてはフジテレビを支配できる」と具体的に企業買収話を持ちかけていた。釈明会見の話は嘘だ。検察の取調べでも初めはそう言って逃げていたのだろう。逃げられなくなって、一転して罪を認めた。
思えば、この一昨年9月15日から11月8日の時期というのは、ライブドアが近鉄球団の買収をめぐって楽天と競合している真っ最中で、LDと堀江貴文のプリファレンスがピークの頃だった。さて、問題の証券取引法違反のインサイダー容疑の件だが、昨日、証券取引法の条文を調べて、例の5%以上の買付情報が「重要事実」となる条規を確認しようと試みながら、第166条とその周辺の複雑な迷路に入り込んで見失ってしまった。インサイダー取引に関する
一般説明は「重要事実」のカタログ説明であり、それを理解することがインサイダー取引の概念理解になっている。が、その一般理解では今回の村上世彰の件がよく納得できないのだ。で、悩んでいたら、TBSのニュース番組で石川連紘が解説をして、5%以上の買付情報が「TOBに準ずる行為」であり、LDが村上世彰に11月8日に話したニッポン放送株買取話は、この「TOBに準ずる行為」に該当するということだった。今日の朝日新聞では一面の囲み記事でこれを要約紹介している。
「TOBに準ずる行為」については、どうやら証券取引法そのものではなく、
証券取引法施行令という政令の中に条文があるらしい。証券取引法をスクロールして必死に5%に関わる条項を探したのだが、徒労に終わったのはこの由縁だった。やはり証取法の世界は複雑だ。「プロ中のプロ」の村上世彰が、検察に対して反論できずに罪を認めて調書に署名したのは、動かぬ証拠が固められていたからであり、どれだけ反論しても裁判で勝てないと判断したからである。つまり、宮内亮治と熊谷史人と中村長也の三人が、全ての事実を隠さず証言していて、LD側に物証となるメールやメモが残っていたからである。それを法廷で突きつけられたら村上世彰は絶対に勝ち目はない。この種のインサイダー取引を含む違法株売買というのは、基本的に一者ではなくて二者以上で共謀連携してやるものだ。だから、片方が何かの事情で別件で逮捕され、ありのままを証言してしまうと、片方もシラを切ることができなくなる。両方が安泰でないといけない。
大型インサイダー取引成功の絶対条件は、共謀関係の相手が捜査当局に捕まらず、最後の最後まで裏切らないことだ。村上世彰は「日本をいい国にしたい」と言い、そのためには企業経営を従来の従業員重視のものから株主重視のものに転換することだと宣教して、経済社会を新自由主義の思想と行動で染め上げるエバンジェリストとなった。村上世彰が経産省を退職してファンドマネージャーをやった七年間、日本はいい国になったのだろうか。村上世彰のファンドに流入している資金の大半が米国の大学関係の財団とか年金基金だと言われている。利回りがいいから村上世彰にカネが集まった。ニッポン放送株の売り抜けで100億円の利益、TBS株の売り抜けでも100億円超の利益。村上世彰のところに右から左で集まった金は、そのまま米国の投資家に還元されて彼らを豊かにしたが、日本の企業や経済はどうなったのか。日本人が働いて稼ぎ出した富が、どこかの回路で消息不明にさせられて、米国に吸収されて行っただけではなかったのか。
日本人の生活はどんどん貧しくなっている。村上世彰と同じ「日本をいい国にしたい」を言い、同じ「改革」を政治で実行してきたのが、小泉政権であり竹中平蔵だった。
宮内義彦をGoogle検索すると、「世に倦む日日」が第5位に躍り出る。反新自由主義のシンボルとしてのブログ「世に倦む日日」。左翼方面からは滅法評判が悪いが。