九州南部で降り続いた大雨は、7/24の時点で死者5人を出す大災害となっている。7/17からの大雨の被害は各地に及び、長野県の9人をはじめ全国ですでに25人の犠牲者を出すに至っている。昨夜のNHKの7時のニュースでは鹿児島県北部の
被災地の映像が出て、泥水に浸かって汚れた自宅や学校の清掃と後片づけに追われる住民の姿が映し出されていた。床上浸水に遭った住民の一人が畳を家の外に出しながら、「泥の臭いが落ちるまで大変ですよ。家を建て替えるお金もないしね」と言った場面が印象的だった。そこでふと思ったのは、あ、そう言えば、このニュース映像の中に政府の人間の姿がないなということだった。いつもなら、災害が発生して、大きな被害が出て、例えば大雨や洪水や地震の直撃があって、一日ほど置いて現地の復旧が始まるときに、国土交通相とかの閣僚がピカピカの防災服を身に着けて、黒い長靴に白ヘルメットの姿で被災地を巡回視察する。その傍らには知事や市長が張りついて被害状況を必死で説明し、省庁と県庁の職員が大名行列のように続く。その映像がNHKで放送される。
ある種の恒例行事であり、政治のショーの趣があるが、それでも政治家の現地視察は被災地の住民にとってどれほど心強く、救いとなるものか分からない。土建作業服の視察政治は単なるショーではなく、そこに行政給付の現金を運んでくれるからである。それは直接に被害に遭った人々だけでなく、テレビを見ている我々も同じだ。いつなんどき同じ目に遭うか分からないのであり、政府が金を持って被災地に責任者を派遣する様子を見て安心する。早く閣僚を送ってテレビに撮らせろよと思って見守っているのだ。現行法では
被災者生活再建支援法があり、被災者個々はこの法律による救済を頼りにするのが基本なのだろうが、現実の適用においてどこまで具体的に満足のいく支給が行われているかは不明で、やはり政府による災害復旧の予備費拠出措置を頼りにするという状況は変わらないのではないか。特に自治体はそうだろう。普段なら、必ず国会で取り上げられて、地元選出議員が奮闘する見せ場となり、閣僚や役所の幹部がテレビカメラの前で「政府として全力を挙げて復旧に尽力します」の言質を差し出す。
今回は国会が開かれていない。防災大臣の
沓掛哲男は、その7/24に何とジャカルタでインドネシアとの閣僚級防災対策会議に出席、会議の様子が同じ日のNHKの7時のニュースで放送されていた。金を持って飛んで行ったのは九州ではなくインドネシアだった。この夜の7時のニュースの映像はあまりに皮肉で、被災地の地元住民でなくても絶句するが、調べてみると心が凍りつくような事実があって、政府は沓掛鉄男のインドネシア訪問を7/21の閣議で決定して
発表している。その7/21、先週末の金曜日だが、この日は沓掛哲男は長野に入っていて、知事の田中康夫の同行で土石流被害のあった岡谷市の現場を視察していた。このとき長野県ではすでに死者9名行方不明2名の被害が出ていた。田中康夫は沓掛哲男に対して県の災害対策費に対する地方交付税による支援措置を含む13項目の緊急支援を要請したが、その模様を撮影したカットはテレビで放送されなかった。私がこれまで見た限りでは、長野の県知事選のニュースも出ないし、大雨の被害に対する政治や行政の側の動きは全くと言っていいほど報道されていない。
しかしその間も九州南部では大雨が降り続いていた。この政府の沓掛哲男のジャカルタ派遣は一体何なのだろう。閣議が決めた沓掛哲男のインドネシア訪問日程は7/27までの四泊五日である。まさかバリ島などへの「視察」が含まれているとは思わないが、長野へ行ったのであれば、九州へ飛ぶ準備をして、インドネシアは副大臣クラスか内閣府の若手幹部に任せてよかったのではないか。被害が全国に拡大している最中の外国訪問はおかしい。何のための防災大臣なのか。気になるのは、NHKのニュースと政府の対応で、長野に7/21に沓掛哲男が入りながら、NHKは何故それを放送しなかったのだろうか。
新聞記事を読むと、7/21に沓掛哲男が長野入りしたとき、長野駅では知事選候補者である現職の田中康夫と対抗馬である自民党の村井仁の二人が揃ってプラットホームで出迎えたという。長野県知事選挙が告示されて二人が届け出たのが前日の7/20。二人の候補者は全国的な有名人であり、この三人が長野駅で出揃う絵は視聴者の関心を最高に惹く価値のあるコンテンツだったと思うが、NHKは放送をしなかった。
何かおかしい。奇妙で不吉な感じがする。NHKらしくないし、日本政府らしくない。ここから先は推測になるが、あるいはこれは例の「
骨太の方針」のメッセージを安倍晋三と竹中平蔵がわれわれ国民に向かって発信している新自由主義の冷酷政治なのではあるまいか。今年度の「骨太の方針」では、社会保障費の国民負担増の基本方針とともに、地方への交付税の削減と地方公共事業の大幅削減が柱として盛り込まれていた。そしてNHKの7時のニュースは特に(よい意味でも悪い意味でも)政府広報の性格が色濃い。昔は災害被害があったら真っ先に政治家が飛んで行ってその絵をNHKに撮らせた。NHKの映像の後には政府の予算措置が付いて回った。それは政府と国民の暗黙事項のようなもので、その意味でNHKの7時のニュースには無駄なものは何もない。最近はずっと拉致問題の横田夫妻キャンペーンをやり、そして民放のワイドショーと横並びで秋田県の児童殺害事件をやっている。この7時のニュースの構成が官房長官の安倍晋三の指示であることは我々はよく分かる。NHKのニュースで何をどう放送するかは安倍晋三が決めている。
台風や洪水で地域に被害が発生しても、政府はもう従来のように手厚く面倒は見ませんよと言っているのではないか。政府は今回の大雨被害で未だに対策本部さえ立ち上げていない。二年前の新潟大地震のときはもっと早く立ち上がった。小泉首相も視察に行ったし、天皇皇后両陛下の御見舞行幸もあった。小泉首相の視察は地震発生から三日後である。今回、沓掛防災相をインドネシアに送った小泉首相は、自身で長野と鹿児島を見舞う意思はあるのだろうか。
ネットで調べると、昨日、7/24の夕方に北側一雄が鹿児島の現地を訪れていた。しかしこの映像はNHKのニュースに使われなかった。何故なのだろう。日本政府も災害に対しては今後は米国型のニューオリンズ方式(グローバルスタンダード)に準拠しますよと言っているのだろうか。大雨で人がたくさん死んでいるのに、被災者は一刻も早い政府の救援を待っているのに、首相は政府の先頭に立って国民の生活を守るべき指導者であるはずなのに、平日から東京でタウンミーティングとは何事なのか。