安倍晋三は参院選で憲法改正を争点にして、それをプレ国民投票として演出し、改憲に賛成か反対か、国民に二者択一を迫ることになる。この点についてはすでに共通認識ということでよいだろう。小沢民主党は参院選を政権交代の選挙として訴え、国民に政権交代への支持を呼びかける。憲法改正の選挙になるか、政権交代の選挙になるか、どちらかの選挙になるのだが、何度も言うように「争点」をオーソライズするのはマスコミであり、マスコミは自分たちが設定した争点で政党の政策を色分けし、評価基準を示し、有権者の投票を誘導する。そこでは巧妙にマスコミの「中立」が偽装され、質問項目と数値が目的的にプログラムされた「世論」によって情勢認識が操作され、結局はマスコミが推した側が勝利する。その選挙が憲法改正の選挙になるか、政権交代の選挙になるかは、マスコミの報道方針によって決定づけられる。マスコミが設定した「争点」を無効化するのは至難の技だ。
現時点では、国民の多くは、参院選は政権交代を問う選挙になると思っている。今はマスコミがそのように報道している。民主党に期待を集める方向に意を砕いてやっている。典型的には
古館伊知郎がそうだが、これはマスコミが昨年の衆院選で自分たちがやったことを隠蔽し、国民に忘却させるための詐術であり、こうして再びマスコミは「中立」の仮面を被って立ち現れるのである。来年の7月にはそのようにはなっていない。状況は変わっている。状況を変えるプログラムを安倍晋三は持っている。来年の7月には、国民はこの選挙を改憲の是非を問う選挙だと認識し、自分の投票を決定するようになっているだろう。安倍晋三の手の内をブログが教えよう。安倍晋三はこうするのだ。小泉首相が政敵に「改革に反対する抵抗勢力」のレッテルを貼ったように、安倍晋三は政敵に「護憲にしがみつく反日勢力」のレッテルを貼るのだ。マスコミを動員して「護憲派=反日勢力」の異端表象を固める。
国防とイデオロギーの問題を国会論戦の中心に据える。現憲法を全否定する論陣を国会で張る。タテマエとしても遵守しない。自民党草案の憲法が政府の憲法であるような姿勢で答弁を一貫させる。憲法論議に民主党を誘い出す。憲法に議論と関心をフォーカスする。10月までは教育基本法を議論する。いわゆる戦後民主教育によって日本がどれほど悪くなったかを力説し、日教組の罪責を告発する。教育基本法の思想を批判の俎上に据え、それの廃棄根絶を訴え、それへの同意を民主党に求める。民主党が同意しない場合は逆に斬り込んで追求する。民主党をイデオロギーで揺さぶるのであり、自民党と民主党は思想的に同じではないかと迫り、敵は共産党と社民党だと主張するのである。このイデオロギー攻勢は少なからず民主党を動揺させる。対立軸を作れない。教育基本法改正はまさにイデオロギーの問題だからだ。対立軸を作ろうとすると党内でイデオロギー論争が起きて左右に分裂する。
教育基本法改正が一丁上がったら、次は防衛省格上げ法案を論戦の中心に据える。これも国防と憲法が絡む問題だ。社民党と共産党は大反対するだろうが、民主党は果たしてどうか。「民主党は防衛庁の省格上げに賛成なんですか反対なんですか」と問われたらどう答えるのか。「格上げには賛成だが与党の格上げ案には反対だ」と言うのだろうか。民主党の中には省格上げに反対の者もいるだろう。
前原誠司のように大賛成の者もいるだろう。同じように党内で論争を始めたら結束に亀裂が入る。安倍晋三は民主党に亀裂を入れるべく、秋から冬の国会で教育と国防を論戦して、民主党を内部混乱させるのである。民主党が左右バラバラの寄り合い所帯の党であり、教育や国防について責任ある政策や路線を打ち出せない党であることを暴露して非難するのだ。効果は少なくないだろう。イデオロギーに関わる政策論議で攻め立てられたら民主党は萎縮する。必ず受け身になる。攻勢する側に立てない。
年末まで
教育と
国防でイデオロギッシュな論議が続く。安倍晋三が主導権を握ったまま国会の論戦と審議が続く。内閣支持率は高止まりしたままで、そして合間合間に拉致被害者家族がテレビで安倍晋三を激励する。北朝鮮がミサイル発射実験の第二幕をやってくれるかも知れない。年が暮れ、年が明ける頃、国民は新年が憲法改正を問う参院選挙の年だということを薄々自覚している。小沢一郎が言っていた政権交代の選挙のイメージは輪郭が薄くなっている。現憲法を変えた方がいいかどうか、九条を改正して自衛軍を認めた方がいいかどうか、頻繁に世論調査が行われ、調査が行われる度に改憲派の数字が増えるだろう。民主党の中で右派が勢力を増し、九条改正で早く取り纏めを急げと執行部を突き上げ始めるだろう。が、社民党の吸収合併や選挙協力を控えた執行部はそれを急ぐことができず、曖昧にしたままで参院選に臨もうとする。そして3月、石原慎太郎の選挙カーが改憲の轟音を響かせて都内を疾走する。
憲法改正の争点化は今年の秋から始まるのである。次第次第にそれを争点から外すことが難しくなる。国民の政治関心が国防と憲法に集中し、他の問題が見えなくなるのだ。そしてそこには、安倍政権の愛国路線に反対する抵抗勢力たる「反日左翼」の異端表象が固められていて、分かりやすい敵役が設定され、それが真夏の劇場選挙でマスコミに集中攻撃されて、敗北させられる役目を演じさせられるのだ。昨年の総選挙では郵便局の公務員と官公労がそうだった。参院選では護憲派が徹底的に叩かれる。昨年の衆院選を我々は「
改革ファシズム」の選挙と呼んだが、次の参院選は「愛国ファシズム」の選挙となる。