戦争になる可能性がかなり高い。この情勢を解説している論者の中で、辺真一の議論が私には最も説得力があるように感じられるが、辺真一の分析に従って金正日の戦略を読み解くと、核実験を起こしたのは単なる示威ではなく、この秋に戦争を勃発させるためということになる。私は、核実験の目的は北朝鮮の核クラブ入りであり、核保有国の軍事力を誇示して米国に二国間協議を迫りつつ、経済制裁を耐え凌ぎ、そしてインドやパキスタンの前例を睨んで、二年後の米大統領選で政権が変わるのを待機するという戦略なのだろうと考えていた。昨日までは状況をそう認識していたが、辺真一の話を聞きながら、真実はもっと厳しく切迫したところにあるように思えてきた。金正日は戦争を仕掛けている。狭義の外交の段階は終わった。核実験は瀬戸際外交の最後のカードなのだ。いわゆる「瀬戸際外交」という範疇において核実験の次のカードは無いのである。そう考えると金正日の計略が看取できる。
目的はあくまで米朝二国間協議であり、米国の譲歩による体制保証と経済支援の獲得である。それは変わらない。その果実を得るために短期で勝負を賭けてきたということだ。つまり、国連安保理による制裁決議は北朝鮮が自ら呼び込んでいる戦争の土俵であり、北朝鮮は早く臨検をさせて、早く紛争を勃発させて、早く戦争(交戦状態)に入りたいのだ。臨検と紛争が前提されている。戦後の世界では外交は平時のものになり、外交と戦争は一般の通念と常識において峻別されるようになったが、北朝鮮においてはクラウゼヴィッツ的な「
戦争は外交の延長」という古典的戦争論が生々しく生きている。刀を鞘に収めて話し合うのではなく、ギラギラと抜き身の状態で敵と談判をしている。戦争と外交が不可分一体で、シームレスに繋がっている。要するに、どういうことかと言うと、北朝鮮は戦争を始めてから交渉しようとしているのである。瀬戸際外交では米国が交渉に応じなかったから、瀬戸際の先に飛ぶのだ。
臨検を任務遂行しようとする国連軍艦船との間で銃撃戦を起こす。日本海公海上で流血の事態を起こす。そして米国のリアクションを見るのだ。空爆と地上戦に踏み切るのか、それとも小競り合いの段階で矛を収めて外交交渉での事態収拾へ向かうのか、態度を窺うのである。無論、そこには賭けがあり、米国は空爆と地上戦には踏み切れないだろうという読みがあり、もし仮に米朝全面戦争の一歩前まで行った場合は、中国が身を挺して止めに入るだろうという判断がある。チキンレースは瀬戸際外交の範囲を超えて戦争状態まで含む段階に進んだ。米国の関心は核拡散を防止することであり、特にテロ組織に核が流出しないことである。北朝鮮と戦争して軍事制圧することではない。北朝鮮には米軍が行動して払う犠牲に見合う果実がない。普通に考えれば、臨検で不測の事態が起こり、双方に死傷者が出た場合、すぐさま中露が和平交渉を仲介するだろうし、米国はそれを受けるだろう。全面戦争は決断できないはずだ。
北朝鮮の対米交渉の姿勢は一貫していて、戦争か譲歩かの二者択一を常に迫り続けている。米国はその二者択一を避けるべく、六カ国協議の枠組を作ったり、国連で圧力をかけたりするのだが、北朝鮮が次々とカードを切って、米国に二者択一を突きつけるのである。私は、先日の核実験も真否は微妙と考えていて、本当は北朝鮮はまだ核兵器の開発に成功してないのかも知れない。国連の制裁と臨検を招きよせるための偽装核実験だった可能性がある。海上臨検と流血紛争の事態を現実に作って、そこで米国を二者択一から逃れられないようにするというのが北朝鮮の思惑だろう。戦争が海の上で間もなく始まる。米軍は空爆をやるかどうか決断を迫られる。空爆した後の作戦計画を早急に組み立てないといけない。これまでは、それは放棄したという話になっていた。94年に統合参謀本部が半島での軍事作戦は不可能の結論を出していて、ブッシュ政権もイラク戦争と朝鮮戦争の二正面作戦は無理と判断した経緯があった。
が、臨検をやれば確実に紛争は発生する。日米が軍事制裁(憲章第7章)を含む制裁決議案を提出した以上、米国には紛争勃発後のシナリオが想定されているのだろう。唐家旋とライスの協議も焦点はそこだったはずで、ブッシュ政権が空爆断行までの意思と計画を固めているか否かであり、紛争が勃発して中国が仲裁に入った際に米国が和平交渉に応じるか否かである。臨検で紛争が発生した後の展開は想像しようがないが、日本国内は戦時体制の状況になるだろう。今もそうだが主戦論一色で固まる。例えば、
集団的自衛権の憲法解釈変更について、政府判断に先行して国会で決議を求める動きが出る可能性がある。マスコミの世論調査が打たれて、賛成8割とかの数字が出れば、公明党も反対を貫徹するのは難しい。民主党も赤松広隆が座長の政権政策委員会で解釈変更を確定させる動きになるだろう。また、国民投票法の早期成立への動きも慌しくなり、
小沢一郎の決断で年内合意へと向かうのではないか。戦争が世論を変える。
14日に臨検を含む制裁決議案が採択されれば、早ければ月末、遅くとも来月には日本海に国連軍の臨検任務艦隊が集結、展開することになる。その中には海自の補給艦も入る。沖縄県知事選の投票日の前に、海上紛争の勃発と空爆必至の情勢が現出するかも知れない。知事選の空気はかなり熱くなる。
先ほど国連安保理による制裁決議案の基本合意の報道が出て、それによると米国が中国に譲歩して、決議案から42条の軍事制裁を除外することと、臨検についても「必要があるかどうか事前に協議した上で」という制限が加えられ、さらに「国際法や国内法に従う」という表現まで盛り込まれたようである。この内容だと、紛争が起きるほどの強制臨検にはならない。当初の米国案に較べてマイルドな中身になっている。無論、これは次の核実験の事態が想定されているのであり、今回の決議案の採択と実施の後で、さらに北朝鮮が核実験かミサイル発射を行ってきた場合は、42条を含めた次の決議案へとエスカレートする。戦争状態に持ち込むことが北朝鮮の目的ならば、10/11に予告したとおり、次の「物理的な」対抗措置を講じてくるだろう。辺真一によれば、北朝鮮は休戦協定破棄と国連脱退を宣言すると言う。戦後の歴史を振り返ってみれば、68年のプエブロ号事件もあるし、76年の板門店米兵殺害事件もある。北朝鮮にとって米軍との紛争や衝突は決して初めての経験ではない。