
本田路津子が72年に歌った美しいバラードに『
耳をすましてごらん』がある。NHKの朝の連続テレビ小説『藍より青く』の主題歌として大ヒットした。90年には南野陽子がカバーしている。すっかり忘れていたこの曲に、思い出そうとすると、何かしら秋のイメージを感じるのは、本田路津子のもう一つの
lヒット曲と記憶が接着錯綜し、さらに類似した秋の歌であるトワ・エ・モアの名曲へと、ひと繋がりの連想で頭の中の記憶装置に情報が格納されているからだろう。マスコミは、自民党総裁選のお祭り騒ぎをして、参議院選挙の民意を打ち消すかのような宣伝報道で画面と紙面を埋め、国民大衆の意識の中の「自民党」を再生刷新しようと情報操作し、それを見せつけられるわれわれは、幾度も繰り返した神経衰弱の苦悶に耐えなければならないけれど、耳をすませば、その大きな騒音の下に、確かな時代の動きを知らせる小さな音の響きがある。
報道によると、9/16のNHKの番組に出演した公明党の北側一雄は、総裁選で選出される後継首相に対して、「参院選の結果を踏まえ、国と地方の格差や負担増の問題について、小泉・安倍路線の政策を修正する協議をしたい」と述べ、政策転換を求める考えを示した。この動きには助走があり、9/12の突然の安倍辞任に寝耳に水の公明党は、北側一雄の幹事長談話で「これまでの連立の合意と、参院選の結果も踏まえて、新しい政策協定を作る必要がある」と
述べていた。つまり、公明党は新しい福田政権との間で連立与党の政策協定を作り直し、その中で従来の構造改革路線を修正するように迫り、その中身は国と地方の格差の是正であり、国民の負担を軽減する政策措置だと言っているのである。このニュースは大きい。単に国民や支持者に対して受けをよくするパフォーマンスを演じているだけかも知れないが、何やらそれだけではない緊張感の気配を感じる。

8/22の
新聞記事では、さらにその前段の「助走」の始動が紹介されていて、参院選直後の8/1に池田名誉会長が漏らした「安倍不信」の言葉と、8/9に党の衆院議員団会議で「連立離脱」の発言が議員から飛び出した事実が伝えられている。来るべき総選挙に対して、公明党は並々ならぬ危機感で臨んでいて、場合によっては連立離脱の選択もあるという構えで対応を図りつつあるのである。希望的観測に過ぎるかも知れないが、現時点で私の予測では連立離脱の可能性は五分五分。言うところの「政権協定」改定の詰めの協議で成果が上がらなかった場合、給油新法の審議紛糾(参院)と強行採決(衆院)を理由にして、公明党は連立離脱へと舵を切るだろう。9/16の北側一雄の話では「政策転換」の中に給油新法は含まれていない。今のところは公明党は給油新法を通す構えでいる。しかし、国民世論の趨勢何如では、公明党は海自給油の廃止へと動かざるを得なくなるだろう。

北側一雄の言葉をそのまま信じるとすれば、政権協議の結論として、安倍内閣で閣議決定した07年の「骨太の方針」(その副題は「『美しい国』へのシナリオ」)が大幅に見直され、単に見直されるだけでなく、全面的な撤回、白紙化へと迫られる可能性が高い。07年の「骨太の方針」は08年度の予算編成の基本方針を示している。それは基本的に従来の小泉構造改革の路線を引き継ぐもので、03年の骨太から始まった「三位一体改革」や04年の骨太から始まった「社会保障制度の総合的改革」、さらに06年の骨太からの「財政再建のための総合的な税制改革」を継承するものである。すなわち竹中平蔵が経済財政諮問会議を仕切って、米国からの年次要望書に従って日本の財政・金融・社会保障・労働法制・税制等全般の制度改造を行ってきた政策路線の延長にある。要するに、規制を緩和し、国民負担を増やし、企業負担を減らし、国民と地方への配分と保障を削減する新自由主義の政策群である。

福田康夫が総裁選の中で言っている内政面の政策方針の中身は、殆どこの07年の「骨太の方針」に沿ったものであり、それを変えようとする意識や姿勢は全く見られない。08年度の予算編成作業が始まっており、現在は財務省が来年度の税収を睨みながら8月に各省庁から上がった概算要求を整理査定している最中である。福田康夫の発言はそのまま来年度予算の中身として反映されることになるし、霞ヶ関は7月初に決まった「骨太」のダウンロードを弄りたくなく、福田康夫も霞ヶ関の言うとおりに予算を固めたい。分かりやすく言えば、国民に対して、消費税アップを選ぶか、社会保障給付の削減を選ぶか、どちらかを選べと迫る二者択一論であり、消費税アップがいやなら社会保障の削減なり負担増は我慢してもらうよという政策主張である。これは小泉純一郎が一年半前からずっと言ってきた論法で、小泉純一郎は、「国民が、もうお願いですから消費税を上げて下さいと言うまで、徹底的に(社会保障を)削りまくれ」と霞ヶ関に指示していた。
現在の福田康夫の政見議論の基調は、公明党が抱いている危機感と較べてあまりに遠くかけ離れたものである。果たして福田康夫が新総裁に就いた後の新しい連立与党の「政策協定」の行方はどのようなものになるだろうか。公明党が動きはじめた。共産党も動きはじめた。耳をすませば、確かな時代の流れが聞こえる。岩を穿つ民意の雫の音が聞こえる。新自由主義は、今、この国で確実に秋を迎えつつある。

お待たせしました。それではYOUTUBEをどうぞ。本田路津子の『
耳をすましてごらん』 と トワ・エ・モアの『
誰もいない海』の二曲。いくつ年を重ねても素晴らしいデュエットを聞かせてくれる芥川さんと白鳥さん。白鳥さんは若い頃も可憐だったが、年を重ねてどんどん素敵に魅力的になって行く。そして衰えることなく歌がくうまい。内面に衰えを媒介する要素がないからで、見ていて嬉しくなる。