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日本映画 『フラガール』 - 数珠繋ぎの感動と娯楽のカタルシス
b0087409_203189.jpg10/6夜のフジテレビで『フラガール』が放送されていた。封切されたのは一年前の昨年9月23日。この映画を見た田中康夫は、受けた感動をメッセージにして、機会あるごとにエバンジェライズして歩いていた。その最初のスピーチが、昨年の9月25日に民主党臨時党大会に招待されたときの来賓挨拶であり、加藤学のブログの記事の中にそのことが紹介されている。この日の臨時党大会の会場には、翌年の参院選で山口選挙区から立候補することが決まっていた戸倉多香子も出席していた。そして同じこの日、党大会会場の東京プリンスホテルから赤坂TBSのスタジオに移動した田中康夫は、同じ 『フラガール』 の感動談を夜10時からの「アクセス」の対談の中で披露していた。私はたまたまこの放送をラジオで聴いていて覚えている。「映画を見て感動するだけでなく、一歩でも社会を前へ進めよう」。田中康夫は映画の台詞を引用しながら、市民による政治変革を訴えていた。



b0087409_2032956.jpg1974年生まれの若い李相日監督によるこの作品は、上映と同時に大ヒットを達成、第30回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む五部門の栄冠を独占した。この映画の感想として言わなくてはいけないことは、基本に忠実なオーソドックスな方法によって観客の感動を引き出している点である。ベーシックでクラシックな映画の感動がこの作品にはある。小学生や中学生にも安心して見せられる。積極的に教育素材として見せてあげたい。この監督は若いながら基本が完璧にできている。映画は人を感動させるものだという哲学がある。映画は娯楽だという思想もある。そして何を見せれば人は涙を流して感動するのかを知っている。それは人間の生き方や社会のあり方の基本が理解できているということを意味する。この映画では、感動的な場面が短い時間間隔で連鎖的に継起する。短い場面設定で感動的なシーンを次々と繋げてフィナーレのエンタテイメントに持ち込ん行く。

b0087409_2033990.jpg例えば前半のクライマックスは、父親が炭鉱を解雇されて一家で夕張に移り住む早苗と紀美子との別離のシーンだが、様式的と言えるほど基本的な場面設定とカメラワークでありながら、確かな感動で観客を覆い包む。十代半ばの多感な世代が見れば、間違いなく一生心に残る場面となる。そして落盤事故で小百合の父が死ぬところから始まる通夜の場面と駅での場面、紀美子の母千代がフラガールを応援するようになってストーブを集める場面と続き、心を揺さぶる情景が連続してエンディングへ盛り上がって行く。わかりやすい。この映画は、恐らく日本語がわからない外国人が字幕を見なくても、あらすじだけ頭に入れて映像を辿れば、全ての場面が理解できて感動を得ることができるだろう。確かに台詞の中にも幾つか面白い部分があるが、脚本よりも場面の展開と人物の変化で感動を作っている。構成が成功している。台詞はむしろ短い。彫りの深い、内容の濃い脚本とは言い難い。

b0087409_2035119.jpg平山まどかを演じる主役の松雪泰子は、今回の演技が決して絶品というわけではない。だが、最初は田舎の人間を軽蔑していた都会の失敗者が、次第に生徒のフラガールたちと心を通わせ、人間的に変わってゆく姿が典型的に描かれ、表情の変化の中で見事な存在感が示されている。物語と登場人物の基本設計のレベルでの成功。映画らしい映画。監督の手腕を感じる映画。それともう一つ言いたいことは、この映画はラストがハッピーエンドで終わるということを観客の全てが知っているという点がある。映画のタイトル画で最後の結末は約束されている。そしてそれこそが最大の見せ場である。観客は、そのカタルシスへ行き着くまでに落涙の関所を何度も通り抜けるのだ。展開のスピード感を失うことなく。ハッピーエンドのクライマックスが予告されているという点は、あの 『幸せの黄色いハンカチ』 を思い出させる。また、感動の隆起を数珠繋ぎにしている点は 『ブラザーフッド』 を想起させる。

b0087409_204540.jpg物足りなかったと感じる点を少し挙げると、一つは松雪泰子と豊川悦司のラブロマンスの処理がある。ラブシーンを入れてくれとは言わないが、二人がどうなったのか、愛が結ばれたのかどうか、もう少しその部分についての(大人の)観客の期待に配慮する処理が欲しかった。二人の濃密な心の触れ合いがあるのは前半の居酒屋での会話だけで、映画の後半には二人が心と心を触れ合わせる場面がない。もう一つは、物語の構成の中に常磐ハワイアンセンターの施設なり、センターそのものの存在感が乏しかった。脇役の三宅弘城(炭鉱からセンターに転職した男)がいい演技をしていたから、彼の周囲にもう少し人物を配置して、センターの建物や事業の位置づけを浮かび上がらせてもよかった。作品を「町おこし」の映画として見たとき、アングルががフラガールだけにフォーカスしすぎていたと言うのは厳しすぎる見方だろうか。後半の巡業興行の予行演習の場面の代わりに、センターの男たちの姿も少し描き入れて欲しかった。

b0087409_204183.jpgそれと、欲を言って申し訳ないが、映画に出てくる場面がほとんど冬景色のシーンばかりで、時間の移ろいに季節感が反映されていない。紀美子と早苗との別れのシーンも、母千代が心を変えるシーンも、全部冬のシーンばかりで、紀美子役の蒼井優はいつもコートを着ている。恐らく、映画製作の企画の段階で撮影時間が制約されたのだろう。監督自身もこれほどの名作になるとは想像していなかったのかも知れない。が、地方を舞台にした日本映画であり、ドラマの中で時間の流れを見せる必要がある場合は、やはり四季を見せないといけない。それが日本映画の基本だ。浜通りいわきは風光明媚な土地である。美しい海岸もあるし、阿武隈の紅葉や渓谷もある。近くには三春の桜もある。枯れ草色のモノトーンの背景配色だけでは少し淋しい。当時、炭鉱事業が潰れかかり、失業者が町を去り、地域経済は暗く沈んでいたのだろうが、昭和四十年頃の日本の自然はとても美しかった。美しいいわきの自然を映像の中で見せて欲しかった。

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by thessalonike4 | 2007-10-07 23:30 | その他
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