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石川啄木「一握の砂」を読む - 時代閉塞の東京の空の下で
b0087409_11374760.jpg雲が低く垂れこめ、暗く湿った空気が人を底冷えの世界に蹲らせる冬の休日、不意に石川啄木の歌を読みたくなって、ネットの中に「一握の砂」を探し見つけた。啄木の歌にはいろいろな主題のものがあるが、やはり、東京で不遇な生活を送りながら詠んだ詩の印象が強い。そして私の中では、それらは初冬の風景と重なり、師走の東京の賑いの中で、それを横目で見ながら、貧困と家族の諍いの煩懊に呻き、孤独で憂鬱な思いを作品にしていた若い啄木の姿が浮かんでくる。時代は暗く重く、帝国は念願の一等国へと雄飛しつつあったが、拡大した版図を経営する軍備はさらに膨張し、軍事費を税負担する国民の重圧は深刻に増していた。資本主義が勢いよく回り始め、と言うことは格差の拡大が始まり、したがって副産物として社会主義の思想と労働運動が勃興し、帝国政府がすぐにそれを厳しく弾圧した。啄木が死ぬ前々年の1910年に大逆事件が発生、幸徳秋水ら12名が翌年処刑される。



b0087409_11384137.jpgこの時代を描いた決定版の小説か映画があればいいのにと昔から思っていて、幸徳秋水と大逆事件を中心素材にして、大杉栄や荒畑寒村や徳富蘆花や有島武郎や与謝野晶子が登場する明治末の日本をドラマにできないだろうか。その物語では、だから、ちょうど「坂の上の雲」の正岡子規のロールポジションを石川啄木が受け持つ格好になる。無論、金田一京助も重要な配役になる。正岡子規を抜きにして明治日本を描くことができないように、日露戦争後の明治末期、特に1908年から1912年の5年間の日本は、時代の焦点が石川啄木の生に完全に合わさる。この詩人の日々の挙措や気息とともに時代の状況がある。啄木が孤独に徘徊して視線を向けた本郷や上野や浅草の東京に時代の情景がある。その東京を覆っていた暗鬱な空に時代の予感がある。それは一言で言って閉塞。石川啄木を抜きにしては時代をよく了解できない。その死と死に先行する懊悩と鬱懐はその後の日本の30年間を暗示している。

b0087409_145283.jpg        いのちなき砂のかなしさよ
        さらさらと
        握(にぎ)れば指のあひだより落つ

        こころよく
        我にはたらく仕事あれ
        それを仕遂(しと)げて死なむと思ふ

        こみ合(あ)へる電車の隅(すみ)に
        ちぢこまる
        ゆふべゆふべの我のいとしさ

b0087409_14444036.jpg        新しきインクのにほひ
        栓(せん)抜(ぬ)けば
        餓ゑたる腹に沁(し)むがかなしも

        あたらしき洋書の紙の
        香(か)をかぎて
        一途(いちづ)に金(かね)を欲(ほ)しと思ひしが

        何もかも行末(ゆくすゑ)の事みゆるごとき
        このかなしみは
        拭(ぬぐ)ひあへずも

b0087409_14482625.jpg        大いなる水晶の玉を
        ひとつ欲(ほ)し
        それにむかひて物を思はむ

        あたらしき心もとめて
        名も知らぬ
        街など今日(けふ)もさまよひて来(き)ぬ

        買ひおきし
        薬つきたる朝に来し
        友のなさけの為替(かはせ)のかなしさ。

b0087409_14423156.jpg        誰(た)そ我(われ)に
        ピストルにても撃(う)てよかし
        伊藤のごとく死にて見せなむ

        何(なん)となく明日はよき事あるごとく
        思ふ心を
        叱(しか)りて眠る。

        ふるさとの訛(なまり)なつかし
        停車場(ていしやば)の人ごみの中に
        そを聴(き)きにゆく

b0087409_14424560.jpg        わが抱(いだ)く思想はすべて
        金(かね)なきに因(いん)するごとし
        秋の風吹く

        百姓の多くは酒をやめしといふ。
        もっと困(こま)らば、
        何をやめるらむ。

        「労働者」「革命」などいふ言葉を
        聞きおぼえたる
        五歳の子かな。

        ぢりぢりと、
        蝋燭(らふそく)の燃えつくるごとく、
        夜となりたる大晦日(おほみそか)かな。

b0087409_14544138.jpg最後から二つ目の歌だけは「悲しき玩具」から。あらためて石川啄木の天才を思わされる。一つ一つが心に沁みる。啄木の歌は中学校2年の国語の授業で習った。そのときも、子供ながらいい作品だと思ったけれど、この年になって読み直して、当時よりずっと大きな感銘を受ける。天才というのは年齢に関係ないのだ。そして、天才は自分の天才を知っていて、作品が百年経っても二百年経っても永遠に人の心を感動させ続けることを知っているのだ。国語の教科書に載るべき国民文学たる普遍性を確信していたのだ。26歳での病死はどれほど無念だっただろう。最後に、「一握の砂」の最後に所収されている息子真一の死を詠んだものを。1910年(明治43年)10月4日に生まれた長男は10月27日に死ぬ。啄木は「一握の砂」の冒頭に次のように書いている。「また一本をとりて亡児真一に手向く。この集の稿本を書肆の手に渡したるは汝の生れたる朝なりき。この集の稿料は汝の薬餌となりたり。而してこの集の見本刷を予の閲したるは汝の火葬の夜なりき」。

        夜(よる)おそく
        つとめ先よりかへり来(き)て
        今死にしてふ児(こ)を抱(だ)けるかな

        おそ秋の空気を
        三尺四方(さんじやくしはう)ばかり
        吸ひてわが児の死にゆきしかな

        死にし児の
        胸に注射の針を刺す
        医者の手もとにあつまる心

        かなしくも
        夜(よ)明(あ)くるまでは残りゐぬ
        息(いき)きれし児の肌(はだ)のぬくもり

■ 石川啄木記念館
■ 啄木勉強ノート
■ 啄木の息

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by thessalonike4 | 2007-12-23 23:30 | ワーキングプアと社会保障
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