青く晴れ上がった空の下、西の地平に、真っ白に雪をかぶった富士山が見える。正月は東京の空気が澄みきって、一年中で富士山が最も近く美しく神々しく見える。正月に東京から見る真っ白な富士山は、一年中でその姿が最も大きく輝いている。関東平野に住む者の幸福は、世界で最高に美しい山をただで見ることができることだ。だから正月は、昔の江戸っ子たちの気分がわかるときでもある。今日の朝は、富士山の台座をなす丹沢山系もくっきり見え、その右横に連なる秩父連山もきれいに見えた。少し気になったのは、丹沢の山影が黒々としていたことで、冬の晴れた日に富士山が見えるときというのは、大概は丹沢も稜線に雪をかぶっていたものだ。高度のせいなのか、左の丹沢は雪をかぶって白く輝き、右奥の秩父は常に黒々と低い稜線を伸ばしていた。丹沢が黒々としているのは、あるいは地球温暖化のせいだろうか。
元日夜のNHKBSで「
カーボンチャンス」と題された地球温暖化の特集番組が放送されていた。寺島実郎が司会役で、特にドイツのエネルギー政策と温暖化対策に焦点が当てられた報道企画だったが、そこには金子勝と江川紹子が出演していて、番組全体の基調は、実に二日前のTBS「サンデーモーニング」の主張がそのま延長してメッセージされたものだった。二日前のTBSでは、環境破壊の原因が追及されたが、元日のNHKBSでは、次にどうすればよいかという展望が示されている内容となっていた。二つの番組は、放送局は別だが、視聴者から見ればまさにセットで、キーメッセージは一本の方向を示していた。寺島実郎と江川紹子と金子勝が作った報道番組だから、当然と言えば当然だが、ここでも、ドイツのような自然エネルギーへの政策転換を阻害した要因として、この十年間の日本の新自由主義が批判の俎上に据えられていた。
昨年の「クローズアップ現代」でも
報道していたが、風力発電は日本でも早くから取組みはしていたのだ。私もあの大きな風車を見たことがある。今からもう十年近く前、稚内から留萌へ下る国道を通ったとき、海岸線の丘陵に何十基もの風車が林立していて、初めて見るその光景に驚いたことがあった。十年以上前、否、もっと前から、日本はクリーンエネルギーの取組みを始めているのだ。「クローズアップ現代」では、青森県の町が生き残りを賭けて風車に投資し、発電事業に賭けている姿が紹介されていた。ドイツのように電力会社が生産した電力を高い価格で購入してくれれば、採算が取れて事業を続けられるのにという説明だった。コストと収益の単純な論理で国が電力事業をやっているから、最近では石炭火力の比率が上がり、CO2排出量が増えているのだと番組は言い、日本のエネルギー政策とドイツとの違いを示し、地球温暖化対策上の無策を浮き彫りにしていた。
「カーボンチャンス」の番組では、金子勝と榊原英資が並んで座り、二人で意気投合するように、「市場原理主義で国が市場に任せて十年間何もやらなかった」「自然エネルギーへ転換させるためには強い政府が必要だ」、「日本がエネルギーと地球温暖化で後進国になったのは新自由主義のせいだ」と言っていた。多くの視聴者の痛憤が代弁され、溜飲が下がる思いだった。新自由主義が日本のいいものいいところを全部ぶち壊した。本当にそうだ。何で国民は竹中平蔵に騙されたのだろう。「構造改革」の嘘に騙されたのだろう。米国の言いなりの奴隷になって、痴呆化と貧困化の自殺行為を進路選択したのだろう。金子勝と榊原英資が言っていた言葉で印象的だったのは、「日本はあのオイルショックのときに、国家の危機を逆に技術開発でハネ返して、省エネ技術でエネルギー消費効率を上げ、工業技術力で世界の頂点に立った。危機を逆に成功のバネにした」という指摘だった。
「それなのに、今は、原油価格や穀物価格がこれだけ高騰して、国としてもうやっていけないほどの危機なのに、誰も危機だと言わない。政府も国民も危機だと感じていない。あのときはオイルショックという言葉があったのに、今は危機を危機として表現する言葉さえない」。そのとおりだ。この危機を突破するべく国家の新しい戦略を構想しなければならないのに、自然エネルギーの開発と普及でドイツに追いつき、温暖化対策の技術開発と国家実効で欧州諸国をキャッチアップしなくてはいけないのに、今の日本の政権と政府には何も思慮がなく意思がない。国民から税金を取ることと、社会保障を減らすことばかりを考え、そればかりに官僚たちは毎日頭を痛めている。番組で訴えられたのは、寺島実郎とその仲間による国家のエネルギー政策の転換の提言であり、この危機は好機でもあるという認識だったが、視聴者が感じたのは、一刻も早く現在の政権と政府を変えなくてはいけないという深刻な危機感だっただろう。
水素エンジンの車なんて、あんなもの、何年前にNHKで見たことだろう。番組では、中国がバスに応用している映像が紹介され、これから北京の町中に水素ガスの供給スタンドを設置するのだと意気込んでいた。この技術で世界に先駆けるみたいなことを鼻息荒く言っていた。冗談じゃない。それを売るのは日本だろう。それを買うのが中国だろう。日本の企業は何をやっているのだ。私が総理大臣なら、二年以内に全国のガソリンスタンドの半分を水素ガスに変える計画を立てて、自動車メーカーに新技術車を大量生産させる。松下幸之助が生きていたら、そうしなはれと言うに違いない。日本の経済産業省は何をやっているのだ。新しい工業技術は日本で開発して、それを新製品にして、国内で売って、国民のボーナス所得で買わせるのだ。工業製品の品質に世界一煩い日本人に買わせて、改良を加え、製品技術を磨き、量産化で安くして、それを海外で売るのである。国民に購買力を持たせなきゃいけない。分厚い中産層を作ることだ。
日本の生きる道はそれだ。中産層を再建し、国家の戦略技術目標を立て、それを数値化して民間企業と国民生活にダウンロードする。世界が真似のできない画期的な新製品を安く作る。そして均質均等な民族の力で目標を達成実現し、温暖化防止の模範となる。世界の先頭に立つリーダーとなる。私が総理大臣だったら、数値目標は欧州を越える線を立てる。日本の方が技術の蓄積があるのだから、温室効果ガス削減で他より高いアグレッシブな目標を立てるのは当然ではないか。常に日本が世界一高い目標を立てていればいい。オイルショックと同じサクセスストーリーを続ければいい。カギは中産層だ。年末と年始の放送で、日本の国民も少しは意識が変わっただろう。新自由主義のマインドコントロールから解けた人間が少なからずいるだろう。この空気(=新自由主義への反省)が不可逆的な世論となり、総選挙に影響を与えることを期待したい。今からでも遅くない。目標を立てて産業を立て直すことだ。新自由主義の逆をやれば、日本は必ず復活して成功する。
番組では、あの改革論者で、二年半前の郵政選挙のときには小泉自民党応援団の一人として
大活躍した伊藤洋一が、ヘラヘラと立ち位置を移動させて、金子勝と榊原英資の市場原資主義批判に相槌を打っていた。調子のいい男だ。吹く風の様子を見て、新自由主義からそそくさと転向を始める気らしい。
【お正月】
薬害肝炎の問題をきっかけにアルコールをやめて二週間。啄木もああ言っていることだし、もう少し続けよう。せっかくのお正月料理も日本酒がないと味わいは半減してしまう。で、今年のお正月はスタバのキャロットケーキとレモンケーキで極楽気分にさせてもらった。
それにしてもスタバのスイーツは It's very nice ! 日本人を攻略したグローバリズムのテイスト。そういえば、感じのいい小柄な米国人の男がいて、いつも同じ時間に店に並んで、too expensive だがやめられないと言いながら tall size のカップを買っていた。 me too (笑)