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榊原英資教授へのお手紙 - 「改革」の言葉の検証と再定義を
b0087409_163450.jpg榊原先生、こんにちは。毎日のテレビ出演、ご苦労さまです。榊原先生の経済解説は素人の私にもとてもわかりやすく、特に昨年からのサブプライム問題についての時事解説は、他の評論家の皆様の議論を圧倒して、榊原先生の信用収縮論の視角からの分析と予測が正鵠を射たものであったと思います。サブプライムの問題がテレビ報道で話題になったのは、昨年の9月頃ではなかったと思いますが、銀行や証券や系列のシンクタンクのアナリストたちは、揃って楽観的な観測を言い、米国経済は底堅くて、低迷は一時的で、早期に解決に向かうだろうと特に説得的な根拠もなく語っていました。少なくともマスコミ上の報道解説において、最も早い時期から「信用収縮」のキーワードでサブプライム問題の解読と予測を一般視聴者に提供していたのは榊原先生ではなかったでしょうか。榊原先生がまだ大蔵官房審議官だった17年前から拝見していますが、衰えのない慧眼と達弁には恐れ入る次第です。




b0087409_1631760.jpg榊原先生は、最近、特にテレビ朝日の報道番組に頻繁に出演され、東証と世界の市場における株安の問題について解説し、日本政府の対応の現状について批判され、打つべき対策について提案をされています。その中で特に気になる部分があります。それは、榊原先生が、「外国人投資家が日本株を売るのは福田政権が改革から後退しているせいだ」、「小泉さんはあれだけ改革、改革と言っていたが、福田さんは施政方針演説でも一回も<構造改革>の言葉を使わなかった」などと言い、政府の「改革路線」からの転換姿勢が日本株売りを促し、日本の景気を悪くさせている原因だと言い続けていることです。この言葉は、そっくりそのまま、モルガン・スタンレー証券のロバート・フェルドマン氏や竹中平蔵氏が言っている言葉ですが、榊原先生も彼らと同じ立場なのでしょうか。フェルドマン氏や竹中氏が「改革」の再加速を絶叫するのは立場的に理解できますが、榊原先生は市場原理主義に対しては批判的な立場であり、先日のNHKの「クローズアップ現代」においても、その旨の発言をされていました。

b0087409_163322.jpg特に90年代以降、日本において「改革」とは新自由主義の政策を意味する別の言葉でした。「構造改革」とは新自由主義の経済政策であり、それを美化し、一般に積極的に受け入れられるようにプラスシンボルとして表象化した言語でした。「改革」の具体的内実は、労働法制を規制緩和して非正規雇用を拡大したこと、法人税率と株式譲渡税率を引き下げたこと、M&Aが容易にできるように規制緩和したこと、などがあります。それからまた、骨太の方針で財政再建のために社会保障費削減を決め、毎年2200億円の予算を削減していることなどが挙げられます。郵政民営化もありました。労働法制、会計法制、金融、税制、国家財政、社会保障制度、等、社会全般にわたる網羅的な内容を持ち、特に小泉政権の5年間において強力に進められ、法的制度的に整備実現されて行きました。これらは、いわゆる「小さな政府」の政策であり、90年代において市場原理主義のエコノミストが強力に要求していた政策内容でした。そのエコノミストの代表格が当時慶大教授の竹中平蔵氏であったこと、今さら言うまでもありません。

b0087409_1634334.jpg私が問題とするところは二点あります。一点は、市場原理主義を批判するのなら、当然、市場原理主義者の政策主張である「改革」に対しても批判的な視角が持たれななければならないということ。もう一点は「改革」の推進が本当に日本の経済を好転させるのかということです。ソロスの言葉を引用し、市場原理に任せるのではなく規制が必要だと訴えることは、「改革」を無条件無前提に礼賛し、「改革」の継続を政府に督促することとは明らかに矛盾します。福田政権が、先の小泉政権が進めてきた構造改革の路線から距離を置きつつあるのは、構造改革の諸政策によって社会に齎された歪や痛みが大きく、勤労者の年収が減り、家計消費が落ち込み、中小企業が経営破綻に追い込まれ、地域経済が衰退し、医療や教育といった国民生活の最低限のインフラが破壊され、国民が生活の困窮に喘いでいる状況があるからです。これ以上「改革」を進めれば、国民生活は完全な崩壊へと至ることは必至で、特に地方は生き延びることができず、そのことが昨夏の参院選の民意となって現れ、「生活第一政策」を訴えた民主党の圧勝に繋がったのでした。

b0087409_1635436.jpg衆院選を控えた福田首相が、そうした国民生活の惨状と政治的民意を前にして、政策を小泉時代の「構造改革」に引き戻せるはずがないではありませんか。それは地域経済の破壊と国民生活の窮乏に拍車をかける選択であり、選挙対策としては明らかな自殺行為です。下野宣言に等しい無責任な政治でしょう。榊原先生が批判する市場原理主義とは、その真実は、まさに市場強者原理主義でした。単に市場というメカニズムが機械的に調整に失敗して暴走するのではなく、実際は、剥き出しの欲望を持った堀江貴文や村上世彰のような強者が、そして竹中平蔵氏によって政策的に特権利益誘導された米国の資本が、彼らのサープラスをさらに増殖させるために、日本の福利を独占するために、日本国のあらゆる社会制度を改造改変することでした。暴走は機械的な市場メカニズムで起こされたのではなく、人間によって合法的権力的に起こされました。それが市場原理主義であり新自由主義であり「改革」です。「改革」とは新自由主義の経済政策の総体であり、それを美称化した政治的な言語シンボルです。必要なのは、小泉改革への回帰ではなく、それからの一刻も早い離脱です。

b0087409_164441.jpg第二の問題、「改革」の政策は本当に日本経済を好転と繁栄に導くのかという問題ですが、これは榊原先生のご意見に同意できません。例えば、1/22の「報道ステーション」の席上、榊原先生は消費税増税を言っていましたが、誰が考えてもわかるとおり、消費税を増税すれば、間違いなく消費が冷え込んで、ただでさえ危険水域の日本経済が回復不可能な痛手を負うことでしょう。昨年の新車販売台数は前年比7.6%減の343万台で4年連続で減少。この数字は1972年以来35年ぶりの低水準です。百貨店売上高も前年比0.5%減で11年連続の前年比マイナス。家計の貯蓄率も過去最低で、96年には10%あった貯蓄率が3.4%にまで減少。この状態で消費税税率を2倍に引き上げたらどうなるでしょう。専門家でなくても経済全体への悪影響は明らかです。消費税を上げるというアナウンス効果だけで、消費者は生活防衛の心理が働いて、財布の紐をさらに固く締めるでしょう。榊原先生や朝日新聞の「改革」の連呼、すなわち財政再建のための消費税必至論のリフレインは、その意に反して、現実には視聴者や新聞読者である国民に消費抑制を促し、個人消費を冷え込ませる効果を与えていると言えます。お気づきでしょうか。

b0087409_1641420.jpg改革政策とは、分配の観点から見れば、これまで勤労者や中小企業に配分されていた財貨が、大企業の側にシフトして流れ込むように経路を変える調整を意味します。改革政策によって、銀行や大企業は過去最高の利益を3年も4年も上げてきましたが、それらは会計の中で純資産の内部留保の膨張となり、証券投資に回され、また企業買収の資金になるか企業買収を防衛する資金として積み上げられ、役員報酬や株主配当金にはなっても、設備投資や消費(勤労者所得)に回ることはありませんでした。新自由主義経済の特徴です。過去最高の利益を企業が上げながら、史上最長の景気拡大を続けながら、また輸出を伸ばしながら、日本企業の競争力が高くなったという実感はありません。製品開発力が上がったという見方もできないでしょう。改革政策というのは、堀江貴文や村上世彰や折口雅博のような企業経営者を育てる経済政策です。そして、輸出ではなく国内の地域の市場に依存して経営している中小企業は、内部留保を膨らませるどころではなく、販売不振で利益が上がらず、事業の継続が困難な事態に追い込まれているわけです。改革政策の継続は、その分配の悪循環、マイナススパイラルに拍車をかけるだけではありませんか。

b0087409_1642432.jpg榊原先生の解説は世論に大きな影響を与える力を持っています。どうか、「改革」の語の検証と再定義をお願いします。小泉前首相と竹中平蔵氏の5年間の「構造改革」の正確な結果判定をお願いします。株価が下落して困る人は確かにいます。しかし、その人たちは勤労者ではなく、中小零細企業の経営者でもありません。況や働く貧困層と呼ばれる人たちでもありません。個人投資家や外国人投資家です。株が下がり、富裕層の資産が減っても、日本経済への大きな影響はないでしょう。企業の自己資本が減るのは問題でしょうが、現在の世界的な信用収縮の下では、日本企業の買収を積極的に仕掛けるほどカネに余裕のいあるファンドは(湾岸産油国は別にして)ないでしょう。否、それ以前に、企業は本来、技術開発と販売拡大で売上と利益を伸ばすべき存在であり、人件費の削減や下請けの収奪や法人税の減税で利益を出して成功だと言って有頂天になる方がおかしいのです。そうではありませんか。榊原先生が、新春の「クローズアップ現代」で予想していたのと同じく、私も株価は下がると思いますし、下がってよいと思います。外国人投資家の資金が市場の6割を占めているのですから、その6割が市場から引けば、単純に計算して日経平均は8千円ほどになります。

米国の資本で操作されていた状態をリセットして、新自由主義経済を清算して、そこからまた新しく日本経済を再出発させればいいのであり、株価の下落で注意するべきは、それが今年の春闘に悪影響を及ぼさないように日経団連を監視することだけでしょう。株価が下がって、損を出した個人投資家がテレビの画面で何か言っています。しかし、彼らは家に帰れば、暖房の効いた部屋があります。働く貧困層から路上生活者となった人たちには、その命を守る最低限のセーフティネットもありません。この雪の中で、身を凍えさせながら、一日一日を耐え生き伸びています。どうかテレビで解説をするときは、雪の降る中で路上生活する日本人のことを思いやって下さい。彼らのための経済政策を政府に要求するようお願いします。
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by thessalonike4 | 2008-01-23 23:30 | 新自由主義と福祉国家
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