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岩国市長選における不在 - サイト・エバンジェリズム・センター
b0087409_22482349.jpg岩国市長選は非常に意義の大きな選挙で、勝利することが必要な選挙だった。この選挙と選挙の敗北は末永く人の記憶にとどめられ、後世、日本人がこの時代の政治史の流れを辿るときに、一つのエポックとして思い返される大きな事件になることだろう。私は、1978年春の京都府知事選を思い出したが、30年前の政治を知らない若い人は、何かの機会に調べて知識を持っていただきたい。正直なところ、今年の1月に入ってからの選挙情勢の推移は、遠くから眺めていて、「この形になったら負ける」と思わせるものだった。井原勝介が辞職を表明した昨年の12/26の時点では、市長選の勝利は確実だと思ったし、対抗馬として立候補した相手候補の写真や経歴を見ても、井原勝介が選挙を落とす可能性はゼロだろうと思われた。年末から一か月の間に岩国市の中で民意の大きな変動が起きていたことになる。



b0087409_15112859.jpg岩国市長選で井原勝介が勝つだろうと予想していたのは、大阪府知事選で民主党の推す熊谷貞俊が勝つだろうと思っていたのと同じで、年末から年始の時点では、全国のマスコミも一致した見方をしていた。それだけ昨年7月の参院選の結果というのは影響が大きかったし、年金や薬害を始めとする問題が噴出して福田内閣の支持率が低迷し、自公政権側が選挙を有利に戦える材料はないと誰もが判断していたのである。選挙は勝たないといけない。政治は結果が全てである。政策主張の正しさは結果によって証明される。この結果から、敢えて井原勝介に対して厳しい見方をすれば、年末の辞職の決断において情勢を楽観視しすぎていたのではないかと私は思う。そう判断するのは無理もないし、2年前の2006年4月の市長選では相手候補にダブルスコア(54.144票/23.624票)の大差で圧勝している。

b0087409_15323819.jpg2年前の住民投票での圧勝、それに続く市長選での圧勝、夏の参院選の自公敗北、防衛省疑惑での守屋逮捕、それに伴う防衛予算と米軍再編に対する国民世論の不信感の醸成。それらを計算に入れて、市議会側の来年度予算案の四度否決に対抗して、局面を打開する政治の一手を打って出たのだろうが、山口県の自民党はそれを迎え撃って叩き潰す十分な腕力と自信を持っていた。前回市長選の井原勝介の得票数が54.144票、今回が45.299票。事実として9千人の有権者が寝返っている。保守的な地方の小さな町の選挙であり、締めつけもあっただろうし、脅しもあっただろうし、デマや中傷もあっただろうが(そして私は他の誰よりデマや誹謗中傷が政治において有効な武器である事実を体で知っているが)、2年足らずで9千人(全有権者の8%、前支持者の17%)が支持から不支持に回った事実は大きい。

b0087409_15174490.jpgあれだけ自公政権側に逆風が吹く環境で、しかも国のこれまでの防衛政策が国民に不審の目で見られ始めた好機にあって、前回得票数よりも大幅に支持を減らした点については、結果責任において厳しい反省を求められても仕方がない。井原市長敗北の合理的な説明や理由づけは難しいし、詳細な情報も手元にないが、仮説として、例えば、岩国市民が延々とうち続く政治戦の死闘に倦み疲れていたという見方ができるのではないか。何より市民の生活が大事なはずの市政の場で、国の大きな防衛問題である米軍再編を問う政治戦ばかりを熾烈にやり合って、二年間、住民生活は一向によくならず、地域経済も落ち込んだままという状態に、当の岩国市民、特に基地周辺の騒音被害から遠く離れて関心の薄い岩国市民が倦み飽き、"change"の気分を若い自公側候補に託したという説明ができるだろう。

b0087409_15184043.jpg市長辞任を発表した直後、井原勝介は「米軍再編は争点にあらず」という所感を内外に発表していた。このメッセージは戦略的なもので、内(=岩国の有権者)に向けては、この選挙が左右のイデオロギー対立とは無縁のものだという性格づけを説得し、外(=国内の左翼)に向けては、外から左翼が騒ぐと保守層や無党派が敏感に反応して、勝てる選挙も勝てなくなるから静かにしておいてくれという含意を伝えるものに私には聞こえた。井原勝介のウィニングストラテジーであり、それはそれでリーズナブルな作戦であるように見えた。だから、この戦略は、その後の選挙戦術のオペレーションとプロモーションにも影響して、関心喚起する争点は日米同盟と米軍再編の問題ではなく、政府が自治体を苛めているという国の地方対応の恣意性を浮び上がらせたものとなり、地方自治のあり方を問う政治選択という構図になって行った。

b0087409_15452742.jpgしかし、年が明けて山口県自民党の猛反撃が始まり、容認派の市議や県議たちの総力を上げた「岩国は夕張になる」口コミ作戦が動員され、序盤に予想された形勢の彼我が逆転するに及んで、井原陣営は選挙戦のメッセージを転換、「米軍再編が争点だ」と言うようになり、全国に積極的に支援を要請するようになる。この転換点が1月15日前後だろうか。このメッセージの転換については地元の左派系新聞も確認して報道している。その要請に応えるように、1/27(日)には樋口恵子が現地に入り、2/9(土)には川田龍平と辻元清美と保坂展人が現地に入っている。井原陣営は最後の10日間で猛烈に巻き返したが、最後の一歩で及ばなかった。選挙戦があと一週間あったら、恐らく僅差で勝利をものにしていただろう。選挙は時間の勝負であり、短期に人・物・金の資源を投入して最大の効果を得なければならない。序盤の楽観論が裏目に出た。

b0087409_15221368.jpg私がもし井原陣営の選対本部長だったらどうしていただろう。思うところは三つほどある。まず第一に、今度の井原市長を応援する側には情報センターになるサイトが無かった。どこを見れば岩国市長選の情報を手に入れられるのかが分からなかった。そういう痛痒を感じた人は少なくなかったのではあるまいか。公式サイトを置けと言うのではない。法的なコンサーンがあるのなら、別にオフィシャルでなくてもいい。BLOGでなくてもHPでもよかった。せっかく12/1(土)に1万人規模の大きな集会をやり、1/19(土)にも1500名規模の、2/2(土)にも2000名規模の集会を開いている。チラシやツールも数多く製作していただろう。それらのコンテンツを載せ、刻一刻を伝え、新しいメッセージを逐次投入するサイトは絶対に必要だと思われたが、誰もそれを作らなかった。サイトが設えてあれば、賛同メッセージも多く取れて紹介することもできただろう。運動の基本と思われる。

b0087409_1523219.jpg今回、井原陣営はシンボルカラーを黄色に統一していて、ネットに出ている何枚かの写真でもそれを確認することができるが、黄色のデザインでサイトを設営すればよかった。サイトの不在については、大いに問題点として反省すべきだろう。それと、せっかくネットで情報を発信して全国に支援を呼びかけるのなら、多くの人に見てもらえるインプレッシブなコンテンツを製作するべきで、具体的に言えば、動画を編集するべきだった。数は多くなくていい。1本でも2本でもいいから、5分程度の短いもので、例えば、12/1の集会のハイライトをコラージュして、そこに岩国基地の米戦闘機が離着陸する映像と轟音を入れ、騒音被害に悩む近隣住民とか学校の様子を短いカットで入れ、2年前の住民投票の映像とかもあれば使い、5分間で視聴者を説得してコンビンスできるような、そういう動画を編集・製作してサイトで発信するべきだった。無論、井原勝介のスピーチもそこに別に入れる。

b0087409_15124986.jpg第二はイベントだが、と言うよりも、勝つために誰を岩国に呼ぶかだが、私が選対本部長なら、辺見庸と筑紫哲也の二人をエバンジェリストのターゲットに絞った。1/19(土)に辺見庸に岩国に入ってもらい、1/26(土)に筑紫哲也に岩国に入ってもらった。無論、これは机上の空論だが、私なりに熟考した作戦計画でもある。辺見庸を動かすのは全国の左派を動かすためであり、筑紫哲也に来てもらうのは、実際に岩国で票を取るためである。辺見庸が岩国に入る。岩国で演説する。その動画が配信される。その講演録がネットで閲読される。今の日本で、これ以上、左派・市民派を奮い立たせる特効薬は他にない。選挙には金が要る。金は全国の支援者から集めなければならない。辺見庸が腹の底から絞り出す井原支持の訴えを聞けば、金のない人間でも財布から千円のカンパを簡単に出す。冬眠している左派を自覚した左派に目覚めさせるのは辺見庸のアジテーション以外にない。辺見庸はカリスマなのだ。

b0087409_15131221.jpg不可能を可能にする。辺見庸を動かすのは全国の左派の政治エネルギーを岩国に一点集中させるためである。無論、頼んで簡単に来てくれるような人じゃない。説得するためには、目の前で左腕の一本も叩き斬って見せるか、短刀を腹に突き刺して死に果てるほどの決死の覚悟が要っただろう。それは癌で療養中の筑紫哲也を動かすのも同じことだ。だが、療養中の筑紫哲也が無理を押して来てくれたとなれば、少なからず岩国市民の心を動かすことはできただろう。筑紫哲也は知識人である。そして戦後日本の政治を長く見てきた経験を持っている。この岩国市長選がどんな意味を持った政治戦であるかを誰よりもよく承知していただろうし、頼んで、頼んで、頼んで、玄関先の土間に一時間額を擦りつけて拝み倒せば、きっと無理をして病気の体を動かしてくれただろう。移動がどうしても無理な場合は、衛星中継で講演会をやるという手段もあった。それはそれで一つの大きなニュースになっただろう。

b0087409_1536550.jpg第三に、第一の問題と関連するが、センターの問題である。あれだけの期間、あれだけの集会を頻繁にやり、大量の文書を製作・配布しているのだから、それをオペレーションしている事務局がないはずがない。事務局で忙しく動いている人間が必ずいる。ボランティアがいる。最近の日本の左翼一般の政治運動は、その思想においてセンターの機能を抗原抗体反応的に拒否する傾向があり、核を認めず、核的な存在を頭から否定する原理主義的な態度がある。無核主義だ。ネットに蔓延る「緩やかなネットワーク」の宗教の実体こそ、まさにこの無核主義のイデオロギーである。今度の岩国市長選で、井原支持の中核拠点として機能しているサイトは、結局のところ最後まで見つからなかった。見つからないまま選挙戦が終わった。2年半前の郵政民営化のときもそうだったのだ。マスコミで郵政民営化反対論者が抹殺され、賛成論一色の言論環境となり、それはおかしいだろうと思って、一生懸命にネットの中を探したのだ。

b0087409_15422722.jpgネットの中にも郵政民営化反対の拠点(情報センター)となっているサイトやBLOGは無かった。2005年8月の時点でそれは無かった。本当に無かった。だが、それが必要だと思う人間は、私だけでなく他にも多くいるはずだったのだ。だからSTKの運動を立ち上げた。自分が必要だと思うものは自分が自分の力で作るしかない。BLOG世界を見ていると、井原市長支持の記事を書いて、「これを他の人にも回して下さい」などと言っているのを見かける。男はあまりやらないが。それがどれくらいの人間に回覧されて、現実にどれほど政治的影響を与えているのか。それよりは、一日のビジター数を5千人獲得できるサイトを設営した方が科学的に効果が高いとは思わないか。そのセンターに情報を集め、ワンストップで受発信できる方が効果的だとは思わないか。脱構築左翼における「緩やかなネットワーク」の宗教への信仰が、結果的に政治の勝負においてマイナスの作用を果たしている。ウェーバーの生徒である私にはそのように見える。

以上、運動論の観点から岩国市長選を考えてみた。次は、別の観点(政党と地方自治)から論じてみたい。
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by thessalonike4 | 2008-02-11 23:30 | 岩国市長選挙
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