人気ブログランキング | 話題のタグを見る

本と映画と政治の批評
by thessalonike4

access countベキコ
since 2004.9.1


















イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か
イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14411843.jpg勝浦の川津漁港で昨日(2/25)の朝に「浦じまい」の儀式をやっている場面がテレビで放送されていた。海で遭難した漁師仲間の救助活動に区切りをつける共同体の儀式で、地元では江戸時代から続く風習だと言う。袈裟を着た僧侶が海に向かって先頭で経を読み、漁村村落の集団が小太鼓を叩いて祈りを捧げる。漁協川津支所の外記栄太郎組合長と親族の女性の二人が果物を港の海に投げ入れ、「哲大、お父さんと食べるんだよー」と言っていた。この川津漁港の祈りの情景は、漁師親子が遭難した直後から何度か見る機会があり、非常に印象的で、今回のイージス艦の事件の中で一つの大きなモメントになっている。古きよき日本の村落共同体、そこに生きる純朴な人々の心の健気さを感じさせられ、NHKの大晦日の「ゆく年くる年」を思い起こされ、あの映像に心から感動させられる。あの太鼓を叩く独特の「御法楽」の形式は日蓮宗のものだろうか。



イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14412869.jpg直感的にそのように思ったのは、確かあの付近に日蓮の生まれた誕生寺があったことと、映画『スパイ・ゾルゲ』の中で、上海事変の契機となった日蓮宗僧侶への暴行事件(実は川島芳子と田中隆吉による謀略だが)の場面があり、網笠を被った僧侶たちが太鼓を叩いて読経しながら行進していた映像を思い出したからである。何も資料を確認せず、感じたままをそのまま書いているので間違っているかも知れない。このニュースの映像を、どこかで五木寛之も見ているはずだから、何かの誌上で川津漁港の「御法楽」に触れ、その祈りの心を解説して欲しいと思う。いろいろなことを思う。あそこに集まって祈りを捧げている漁村の人々は、この格差社会の現実の中で決して裕福な人たちではないのだ。年収1千万円以上とかの高所得の人間などはいないのだ。房総半島の端っこで、漁をして、昔ながらの共同体の絆で助け合って、慎ましく清貧に暮らしている日本人なのである。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14413974.jpg行方不明になった漁師の若者は、父親を助けるために高校を中退して漁を始め、そして上野のホームレスのために捕った魚を運んで配っていた。高速道路も通ってない千葉の房総の僻地から、わざわざ上野までアジやサバを車で運んで届けていた。その漁師の船に1400億円のイージス艦が衝突して事故が起きた。自衛隊は情報を隠蔽し、責任逃れに終始し、事故から一週間経ったこの時点でも、まだ責任者が国民の前に顔を出そうとせず、時間を稼いで、国民の関心が薄れて事件がうやむやになるのを待っている。今の日本をこれほど象徴している事件はない。現在の日本の社会矛盾をこれほどくっきり浮かび上がらせている現実はない。辺見庸的な、絶句して鬱屈して悶絶するほどの、神経が破裂するほどの、魂魄が割れて砕け散るほどの、渾身の怒りを覚えなければ嘘なのだ。溢れるほど大量の、小便も枯れて出なくなるほど大量の、憤慨と悲嘆と憎悪の体内の水分が涙腺から分泌されて当然なのだ。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14441167.jpg国会は何をしているのかと悶々としていたら、2/25夜の毎日新聞の記事があり、昨日の衆院予算委で民主党の議員が事故直後の救助活動について質問していて、石破茂から、イージス艦が内火艇を海に降ろしたのが「事故発生から14分後だった」という答弁が返っていた。これほど重要な国会情報が、昨夜のテレビの報道番組ではNHKも民放も全く紹介されていない。本日の朝日新聞にも記事がない。朝日もNHKも、昨日から報道の主役を「ロス疑惑」にシフトしている。週が変わって、時機に乗じて視聴者の気分も切り替え、イージス艦の事故から国民の関心を逸らそうとしている。事故直後のイージス艦の対応は最も重大な問題であり、この事件における国民の最大の関心事である。事故発生から16分間、そして1時間の間、「あたご」と海上自衛隊と防衛省は何をしていたのか。それが国会で質疑されているのに、マスコミが情報をマスクするとはどういうことか。信じられない。隠蔽工作は自衛隊と防衛省だけでなくマスコミも加担して同罪ではないか。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14415980.jpgこの今頃になって出て来た「救助の作業艇、衝突14分後に降ろす」の情報も全く信用できない。事故から6日間かけて関係者の口裏合わせと辻褄合わせの細工ができ、自衛隊が「破綻のないストーリー」を語れるようになったということで、そのストーリーの一部が「14分後に作業艇を降ろした」という「事実」なのである。しかし、仮に14分後に作業艇を降ろしたのが事実であったとして、これは人命救助活動としてはあまりに遅すぎやしないか。人が海に落ちれば救助は5分以内が絶対条件だろう。質問した民主党議員のその後の質疑は不明だが、私なら続けて、「それでは防衛大臣にお聴きしますが、海上自衛隊の海難救助訓練では事故発生から救命艇の海面着水まで何分以内とマニュアルに規定されていますか」と追及してみただろう。まさか14分以内などという規定になっているとは思えない。しかも、この場合は自衛艦の方が二重三重に海事法を違反して、過失で漁船を事故に遭わせているのである。この人命救助の初期動作の不作為については、あらためて当事者を厳しく問い詰める必要がある。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_1442726.jpg実際には、彼らは人命救助活動など何もやってないのだ。だから防衛省のサイトに人命救助活動をしたとは書かず、捜索活動をしたと書いているのである。この微妙な表記に真実を隠蔽する海上自衛隊の心の内が読み取れる。それにしても、国会はいつになったらイージス艦事故関連の集中審議をやるのか。いつになったら関係者の証人喚問を要請するのか。まさか民主党は国会証人喚問なしでこの問題を幕引きさせる気なのか。民主党のサイトにある参院国対委員長の簗瀬進の記者会見の発言を読むと、「石破防衛相に対する問責決議の前に事故原因究明を徹底的に」と書いてあるが、この言葉は真に受けていいのか。社民党の保坂展人は、2/22に新勝浦市漁協川津支所を訪ね、「本当のことを明らかにしてほしい。日本を守るはずの自衛隊が日本人の漁民を守らないのはおかしい」と訴えた組合長の外記栄太郎に対して、「真相解明と再発防止に国会でも取り組むことを約束して」いる。その取り組みを見れるのはいつなのか。約束を果たすべく国会議員として動いているのか。証人喚問の要求はしないのか。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14452776.jpg昔だったら、二大政党制になる前の日本の国会だったら、今度のような問題が起きたら、国会は紛糾して審議停止の状態になった。防衛省と自衛隊の小出し情報の矛盾がマスコミと野党によって徹底追及され、予算委での政府答弁が立ち往生し、議長席の周囲に与野党の委員が集まり、審議が中断して国対の収拾が延々と続いたものだ。そして、マスコミの批判は審議を止めた野党ではなく矛盾だらけで答弁不能に陥った政府に向かい、そこで待ってましたとばかり自民党の派閥が動き、一日か二日後には防衛相のクビが飛んでいた。防衛相のクビと引換に国会が正常化した。それが当たり前の風景であり、良くも悪くも日本の国会の常識だった。そして大臣のクビと引換に与党は野党と取引して予算案や法案を通した。なぜ12分前に漁船を発見しながら衝突1分前まで自動操舵を続けたのか、なぜ法律に定められた衝突回避義務を怠ったのか、海保への連絡に事故から16分もかかったのは何故か、防衛相への報告に1時間半もかかったのは何故か、自衛隊の最高指揮官である総理大臣への報告が2時間もかかったのは何故なのか。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14442368.jpgこれだけの質問材料があれば、本来なら簡単に防衛相のクビが飛ぶ。参院を野党が押さえている力関係の現状なら、内閣総辞職か解散総選挙だって簡単にできておかしくない。民主党にやる気がないのだ。「解散に追い込む」と口先では言いながら、本心は嘘で、政府を追及して解散に追い込む気がないのだ。マスコミもそれを知っているから、自民と民主に手を貸して、イージス艦の問題に幕を引こうとしているのだ。試しに民主党の議員のブログやサイトを覗いてみた。平岡秀夫のサイトを見たが、イージス艦の事故に関する記事は何もなかった。ネクスト防衛相の浅尾慶一郎のサイトを見たが、最新の更新情報は3月に地元で開く「陽春の集い」の告知であり、国政報告に関する記事は、昨年12/3に上げられた守屋武昌の証人喚問の話題で止まっていた。イージス艦どころか、今年に入って何も国政報告されていない。これがネクスト防衛相。副代表の岡田克也のBLOGを見てみたが、2/18に書いた次期日銀総裁の記事で止まっていた。イージス艦のイの字もない。菅直人の「活動日誌」も2/18の宮崎視察の記事が更新の最後になっていた。菅直人がイージス艦より道路が大事なのは知っている。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14431615.jpgであれば、自民党の地元選出議員はどうかと思い、あの辺りは昔から自民党王国でもあり、きっと票のメンテのためにも何か書いているだろうと思ったが、千葉11区選出の森英介のサイトを開けてみれば、これが卒倒するほどお粗末の極みで、ページ中の「活動報告」をクリックすると「大変申し訳ございません。只今、製作中にて今しばらくお待ちください」と出た。このサイトはあまりに酷(ひど)い。隣の千葉12区はどうだろうと思い、浜田幸一の息子の浜田靖一のサイトを見たが、やはり何も書かれてはいなかった。浜田靖一の自慢は議員仲間で組んでいるロックバンドらしい。空しくなり、政治家のサイトを調べるのはもうやめようかと思ったが、そう言えば、美貌で人気の民主党の青木愛の選挙区が千葉の安房方面だったなと思い直し、青木愛のBLOGを見たが、2/13の更新でどうでもいい話で終わっていた。政治家のBLOGでまともなものなど一個もない。しかし、千葉選出の国会議員がこれでは、イージス艦関係者の証人喚問など夢の夢だと思えてくる。ついでに紹介するが、自民党千葉と 民主党千葉のサイトはこのようであり、被害に遭った漁師の親族や川津漁港の人々への見舞いの言葉など何一つ掲載されていない。

イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14414923.jpgこの十年、新自由主義は見事に日本を両極分解したが、政治は両極分解された「勝ち組」の世界のものであり、同じく「勝ち組」のマスコミと一緒に政治芸能界を構成して芸能仕事に精を出している。イージス艦が事故を起こして漁師二人を海に叩き落としても、自衛隊は「勝ち組」世界の軍事官僚で、同じ「勝ち組」の政治家とマスコミが自衛隊を批判することはないのだ。政治芸能界では、細野豪志と原口一博と山本一太と大村秀章が、お笑い番組でお笑い芸能人と適当な政治漫才をくっちゃべり、その勢いで予算委の「番組」に出演して、ボケ役の冬柴鉄三相手に「ガソリン国会」の漫才寸劇の台詞を適当にくっちゃべっているのだ。イージス艦の事故などどうでもいいのである。「負け組」の人間が何人死のうが、何人行方不明になろうが、何人自衛隊に殺されようが、そんな瑣末なことには関心はないのだ。自己責任なのだ。国会で取り上げる問題ではないのだ。自民と民主とマスコミがシナリオを書いた「ガソリン国会」の役者として猿芝居するのが仕事なのだ。それが「勝ち組」の政治なのだ。国会は、政治は、「負け組」の国民のためにあるのではない。国会がイージス艦に責任を問うことはない。それを国民が期待するのはお門違いなのだ。

政治が世襲貴族の遊興の世界になっている。殿上人の娯楽の世界の話になっている。


イージス艦問題への政治の無反応 - 漁師の遭難は自己責任か_b0087409_14473565.jpg

【補 遺】

■驚いた。上の記事を上げて1時間経ったかどうかの時間に、自民党の千葉県連がHPを更新して、現在は最新情報として一番上に載っている「イージス艦衝突事故対策本部・勝浦市と新勝浦市漁協を訪問の様子を掲載しました(2008年2月26日更新) 」の情報をアップした。偶然なのかどうかは分からないが。2/25に県議の議員団が漁協川津支所を訪問していて、写真も載せている。森英介や浜田靖一のサイトの情報も変わるだろうか。

■livedoorニュースのイージス艦事故関連記事に、防衛省の公式発表と並んでブログがリンクされている。このニュースにも。

■毎日新聞のこの記事がすごい。衝撃的だ。こんな記者会見を防衛省と自衛隊がやっていたとは全然知らなかった。テレビのニュースに出るだろうか。明日(2/27)の朝日の朝刊は記事にするだろうか。どこかで会見映像記録の全部を見ることはできないだろうか。

by thessalonike4 | 2008-02-26 23:30 | イージス艦衝突事故
<< 隠蔽工作の真犯人は石破茂 - ... 昔のIndexに戻る 艦長と当直士官を証人喚問せよ ... >>


世に倦む日日
Google検索ランキング


下記のキーワード検索で
ブログの記事が上位に 出ます

衛藤征士郎
八重洲書房
加藤智大
八王子通り魔事件
吉川洋
神野直彦
サーカシビリ
敗北を抱きしめて
苅田港毒ガス弾
道義的責任
可能性の芸術
青山繁晴
張景子
朱建栄
田中優子
小泉崇
アテネ民主政治
二段階革命論
影の銀行システム
特別な一日
ボナパルティズム
鎮護国家
三田村雅子
小熊英二
小尻記者
古館伊知郎
本村洋
安田好弘
足立修一
人権派弁護士
反貧困フェスタ2008
舩渡健
エバンジェリズム
ワーキングプアⅢ
新自由主義
国谷裕子
大田弘子
カーボンチャンス
秋山直紀
宮崎元伸
守屋武昌
浜四津代表代行
江田五月
馬渕澄夫
末松義規
平沢勝栄
宮内義彦
田勢康弘
佐古忠彦
田岡俊次
末延吉正
横田滋
横田早紀江
蓮池薫
金子勝
関岡英之
山口二郎
村田昭治
梅原猛
秦郁彦
水野祐
渓内譲
ジョン・ダワー
ハーバート・ノーマン
B層
安晋会
護憲派
創共協定
全野党共闘
二大政党制
大連立協議
民主党の憲法提言
小泉靖国参拝
敵基地攻撃論
六カ国協議
日米構造協議
国際司法裁判所
ユネスコ憲章
平和に対する罪
昭和天皇の戦争責任
広田弘毅
日中共同声明
中曽根書簡
国民の歴史
網野史学
女系天皇
呪術の園
執拗低音
政事の構造
政治思想史
日本政治思想史研究
ダニエル・デフォー
ケネー経済表
マルクス再生産表式
価値形態
ヴェラ・ザスーリッチ
故宮
李朝文化
阿修羅像
松林図屏風
菜の花忌
アフターダーク
イエリネク
グッバイ、レーニン
ブラザーフッド
岡崎栄
悲しみのアンジー
トルシエ
仰木彬
滝鼻卓雄
山口母子殺害事件
偽メール事件
民主主義の永久革命
ネット市民社会