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奈良紀行 7 - 奈良ロイヤルホテルの茶粥
b0087409_16445496.jpg旅行へ行って、どこへ泊まったとか、何を食べたなどということは、あまり書きたくもないし、誰かが書いたものでも読みたいとは思わない。司馬遼太郎の『街道をゆく』でも、そうした話はほとんど出て来ない。しかし若干の例外があり、文中に宿舎や食事に立ち寄った店の名前が登場する場合がある。読者である私にとってそこは要注意の情報となる。台湾の高雄にある国賓大飯店(アンバサダーホテル)はそういう一軒で、『台湾紀行』の中で紹介されていた。これはいいホテルに違いないと睨み、旅する機会を待ち、その機会を得て、東京から電話で予約を入れたが、「calling from Tokyo」と言った途端に、「あ、東京からですか、これはどうも」と即座に流暢な日本語が返ってきた。実際にサービスのクオリティが完璧で、ここのホスピタリティに勝てるホテルは日本国内でも数少ないと思われる。フロントもベルマンも全員が日本語と英語と中国語の三ヶ国語に堪能だった。抜群な語学能力。



b0087409_16451653.jpgレベルが高く、かつフレンドリーで、ケアが行き届き、価格がリーズナブル。ハウスキーピングも素晴らしかった。ダイニングのキャプテンもよかった。「私はキリンビールが好きなんです」と上手な日本語で言っていた。印象として、ここのホテルのサービスの理念や基準は日本のホテルの70年代から80年代の理想にある。米資系のホテルのコードやマニュアルではない。日本だ。従業員の教育トレーニングも日本製のものだ。制服もそう。そのことがよく分かる。そして自信を持っている。失われた日本のよさがある。日本人が心から寛げて休めるホテル。あまりに素晴らしかったので、ニ回も泊まりに行ってしまった。ここだけの話だが、電話でお願いして、一泊を二泊にするからと頼むと、マネージャが出てきて価格交渉にも応じてくれた。本当に気分がいい。行く前から気分がよくて、最後まで気分よくしてくれる。高雄に旅行する際は、司馬遼太郎夫妻も泊まった国賓大飯店(アンバサダーホテル)のご利用をお勧めしたい。

b0087409_17221689.jpg奈良ロイヤルホテルは、近鉄奈良駅から一駅先の新大宮にあり、しかも駅前からタクシーで5分ほど離れた不便な場所にある。奈良公園を観光するには立地が悪く、その面では決してお勧めできない。しかし、その立地条件の悪さを朝食がカバーしていた。朝食はバイキングのスタイルだが、並べられた和食のメニューが素晴らしいのである。奈良の郷土料理の惣菜が何種類もテーブルの上に揃えられ、それは奈良の食材と料理の見事なプレゼンテーションとアピールになっていた。まなの煮浸し、ごま豆腐、のっぺ(里芋の煮物)、もみうり、菜の花の唐辛子和え、奈良漬、まなの漬物など十品を越える料理が皿に盛られていて、茶粥と茶飯があり、さらに柿の葉寿司まで用意されていた。豪華で美味。バイキングのテーブルには洋食の料理の品々もあったが、あれは全く無意味で必要ない。ここでトレイの皿にソーセージやスクランブルエッグを盛って喜んでいる客はクレージーだ。日本人だけでなく外国人にも、奈良の惣菜料理を断固口にさせるべきである。

b0087409_16454270.jpg日本のホテルの朝食バイキングは、標準として和食のみにメニューを限定するべきで、パンや洋食はそれを得意として提供しているホテルだけが出せばいいと私は考えている。米国のホテルの朝食で、ご飯や海苔や味噌汁や鮭の切り身や納豆を出してもらったことは一度もない。日本に来た米国人にはジャパニーズの朝食を食わせるべきで、箸が使えない人間にはフォークを出せばいい。郷に入らば郷に従う。それがビジネス・トリップの醍醐味というものだ。確かに日本のホテルでも洋食の朝食が素晴らしいところはある。例えば、名古屋の東急ホテルで出る朝のフライドエッグは、価格も一級だったが味も一級品だった。だが、一般のホテルで無理に洋食バイキングを出しているところは、味も素材もよくないし、やむを得ず出しているという淋しさが漂っている。コスト的にも余計な負担がかかっているのではないか。経済産業省と農林水産省で協議して、日本のホテルの朝食バイキングのスタンダードを和食メニューにフォーカスするべきだ。閣議決定して記者発表すればいい。

b0087409_16501434.jpg奈良ロイヤルホテルの朝食で出された惣菜はどれも美味しかったが、特にまなの煮浸しの味が心に残った。しかし、つくづく思ったが、日本人が食べる朝飯で、茶粥と奈良漬以上に幸福な食べものがあるだろうか。二泊三日の二日間は、朝、茶粥をお椀に三杯かきこんで、奈良漬とまなの煮浸しで満腹になり、昼は食べず、二泊目の夜は柿の葉寿司の10個入りを登大路で買って、部屋でつまみ食いするだけで十分だった。茶粥と奈良漬の朝飯は幸福だ。身体が、全身の細胞が、日本人の食の幸福を大脳に訴えて、箸を動かす手をアクセラレートする。味噌汁も美味かった。奈良の漬物と味噌汁は格別な味がする。口腔の奥から響き伝わって来る古代の芳醇で深い味わいがある。京都の朝の白粥と柴漬けと白味噌の味噌汁も美味いが、例えば、グランヴィア京都の「浮橋」で出される朝粥定食の極上の美味は言いようもないものだが、しかし、奈良の茶粥と奈良漬、茶飯とまなの漬物と比較できるだろうか。京都の朝食には安土桃山以降の和の贅がある。しかし奈良の茶粥には古代がある。古代の日本の味だ。

b0087409_1646636.jpg子供の頃、ざぶざぶとお茶漬けをよく食べていた。その記憶が甦って懐かしかった。実は、私は茶粥は二回目で、一度目は7年前に近鉄奈良駅前の月日亭の豪華な会席膳で食させてもらった。注文してから鍋で炊き始めるここの茶粥は抜群に美味かった。そのときは、茶粥が旅の一つの目当てだった。あれは10年ほど前だろうか、轡田隆史という老人の風貌をした朝日新聞の論説委員がいて、小林一喜なきあとの何代目かの「ニュースステーション」の解説者をやっていた。解説は冴えなかったが、この男が奈良が好きで、(朝日の幹部記者は皆同じだが)仕事を趣味に利用して、番組の経費で奈良へよく取材に出張していた。ある夜、金曜の夜だったか、スタジオに畳の座敷が準備され、久米宏が「今日のテーマは茶粥です」などと突然言い出し、本当に鍋で茶粥をぐつぐつと煮始め、轡田隆史が滔々と薀蓄を披露し、ニュースの報道もそこそこに、座敷に上がりこんだ三人(小宮悦子と久米宏と轡田隆史)が茶粥を椀に入れて貪り食った出来事があった。久米宏の「うまいっ」という喜悦の声が上がり、轡田隆史が勝ち誇ったように笑っていた。

b0087409_16461596.jpg小宮悦子は何も言わず、二人の会話に耳を貸そうともせず、ミニスカートの長い足を無造作に座敷の上に折り畳んだまま、カメラも気にせず、何度も何度も空の椀に鍋の茶粥をつぎ入れ、左手の箸をせわしく口に動かしていた。その映像の始終を見た私は、いつか奈良で本場の茶粥を食べてやると心に誓い、その機会を待っていたのである。轡田隆史が言ったとおり、茶粥は食べものとして絶品で、そこには古代の味と香があった。奈良の味は京都の味とは違う。昆布と鰹の出汁の味とは全く違う。もっと古い味。奈良漬の味。身体の奥から響き上がって、この国の歴史の長さを教え伝える味。縄文時代とか弥生時代の食生活を想像させる味。奈良の人は奈良の郷土料理を田舎風の味だと思っていて、確かにその表現は京都の味と較べれば当たっているが、しかし、東京の人間にとっては、その表現は必ずしも妥当なものではない。われわれにとっての田舎の味というのは、例えば水戸のあんこう鍋の料理で鍋に入れる東北テイストな味噌の味であり、北関東の蕎麦屋のつけ汁の芳醇さのない濃い味である。歴史と文化の弱いところは、残念ながら料理の味にも反映される。

歴史と文化の伝統のあるところは和食が美味い。と言うより、ご飯と味噌汁と漬物とお茶が美味い。ご飯と味噌汁と漬物とお茶。これが基本だ。これが日本人の食の基本であり、韓国人にとってのキムチなのである。前回は豪華なディナーの会席膳で奮発した茶粥を、今回はざぶざぶと朝飯のバイキングでかきこんだ。朝でも夜でも茶粥は美味い。

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by thessalonike4 | 2008-03-20 23:30 | 奈良紀行
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