いろいろな護憲エバンジェリズムのアイディアがメールで飛び込んで来る。ある読者からは西田敏行を使えという提案があった。インリンはよく出る。他にないか。探せばもっとたくさんあるはずだ。ある英国在住のブログ読者からは、海外エバンジェリズトのリストアップとして、ノーベル賞作家のガルシア=マルケス、イラン前大統領の
ハタミ師、ナイジェリア出身のノーベル賞作家のウォレ・ショインカの三人の名前が提案された。全てメイクセンスである。大江健三郎が三顧の礼を尽くせば応諾してくれるだろう。人はそうやって助け合うべきだ。困ったときは助けてくれとお願いに上がるべきだ。このままだと改憲されるから助けて下さいと外つ国の偉人たちに頭を下げて頼むべきだ。地球は一家である。ひとつの家に住む同じ家族であって他人ではない。日本の改憲は世界の人々にとって決して他人事ではない。向こうが困ったときはこちらが助け、こちらが困ったときは向こうに助けてもらうのだ。
アイディアとは別にこういうのが届いた。「九条の会」の一端が見える。他の読者に読んでいただきたく、メールの一部を紹介する。「
毎日、拝見させていただいております。本日の記事、護憲派の皆様がたの現状、まさにそのとおりと感じ入りました。私も先日やむなく、義理で誘われて、地域の「9条の会」に出席しましたが、日曜日というのに若い人の姿は皆無でした。もう余生を考えて戦争の危険とはさしあたって関係のなさそうな方々ばかりで、自分の息子や孫も説得できなくて何の展望があるというのでしょうか。私が不思議でならないのは、護憲派の人たちはただただ9条命と言うばかりなことです。私は、憲法前文と9条とは、制定当時、強力かつ公正な国連警察軍が設置強化されることを予想しそれを前提としての規定だと考えます。そうでなくて、生物的な本能である自己の生命と自尊の保全即ち正当防衛権たる自衛権を破棄してしまうような自殺行為を是認できるでしょうか」。
だから、護憲派は国連改革と国連警察機能強化の方策をもっと積極的に提言せよというのが、この投稿者のご意見だった。全く同感である。九条の理想は、当時も今も、国民国家の古典的な主権概念を制限して、主権国家の持つ武力を国連に吸収し、国連軍が世界の単一標準の警察力になることで目標を実現することだった。この理想は、単に理想のまま終わっているのではなく、六十年経って意外な形で現実化する様相を見せている。それは二つあって、一つはEU(欧州連合)であり、EU議会からEU憲法へと踏み出し、EU軍からEU大統領という里程標を確実にリアライズしつつある。ネーションステート(近代国民国家)を誕生させた欧州が、真っ先に国民国家のモデルの解体と止揚へと向かうのは、何となく歴史の必然であるようにも見える。もう一つの現実は米軍で、きわめて逆説的ながら、世界のあらゆる武力が米軍に一極集中し、米軍以外の軍事力をほぼ完全に無力化させている。
すなわち、米国大統領が九条の理想とする国連大統領の存在でありさえすれば、そのまま九条の理想は政治的に実現するという、言わば逆説的な意味での「物質的土台」を21世紀の世界は準備完成させている。戦後の半世紀、九条の理想が実現しなかった大きな歴史的理由は米ソの世界分割と冷戦構造だったが、冷戦が終わり、世界の軍事力が一極に集中管理され、一人の指導者の管理下に置かれているという意味では、九条の理想は外形だけは半世紀前と較べて現実に近づいていると言える。米軍に対抗できる武力は地球上にない。米国が世界を米国化するのではなく、世界が米国を世界化すれば、すなわち米軍とドルを世界の人々の平等な幸福のために方向づけることができれば、九条が理想とする世界連邦的なユートピアが現実の姿をあらわすことになるはずだ。21世紀の欧州では国家間の戦争という概念はなくなる。日本の右翼は九条の理想を画餅だと言い、19世紀的な国家観と戦争観を歴史普遍的なもののように言うが、これは全くの倒錯であり、現実の無視である。
日本は改憲すれば、すぐに核武装する。米国から核兵器を購入する予算を毎年一兆円ほど付けるだろう。無論、それは米国の指図に従ってのもので、だから仮に核のボタンを官邸に置いたとしても、発射の権限はホワイトハウスと米軍統合参謀本部の管理下に入る。米軍の一部としての日本の核兵力になる。日本の核武装を最も脅威に感じるのは中国で、中国は日本の核攻撃力に対する抑止力の緊急整備に迫られ、さらに軍事大国化の動きに拍車をかけざるを得ない。これは米国によるLRSPとしての東アジア世界の分断統治政策であり、日中を反目させ、日本の軍事力で中国を刺激牽制し、中国の軍事費負担を増加させ、中国(と日本の両国)の国力を消耗させようというグランドストラテジーが背景にある。豆殻で豆を煮るではないが、米国にとっての潜在的脅威である日中を互いに対立させることで消耗没落させようという目的がある。東アジアに新しい局地的冷戦構造を作り、日中二国をその構図の中に嵌め込んで競わせ、米国が超越的な存在として世界支配する枠組の一部にする。
「週刊金曜日」の最新号に小森陽一が国民投票で勝つ戦略について書いているらしい。まだ読んでないが、国民投票に持ち込まれたら、その時点で確実に負けだ。絶対に勝てない。勝てると思っているのは読経左翼の妄想に過ぎない。