護憲が護憲を呼び集めるのは、それほど難しくはないのではないかと私は思っている。護憲集会の会場が満席になりましたというような報をよく聞くが、無論、その成果と情報は十分に政治的な価値と意味があるけれど、しかし重要なのは、護憲が集まることではなく、改憲を護憲に変えることだ。護憲でも改憲でもない立場の者を護憲に変えることであり、改憲の立場の者を中立に変えることである。人々の政治意識を実際に変えないといけない。九条改正の世論は、朝日新聞では賛成が43%で反対が42%になっている。毎日新聞では賛成が49%で反対が41%となっている。昨年は九条改正に反対が世論の多数だった。「九条の会」の地域での奮闘にもかかわらず、新聞の調査では逆転を許し、九条改正反対は現実に少数派の立場に転落している。そしてマスコミの改憲プロパガンダは一日も休むことなくシャワーされ、今、この瞬間にも世論動向は「九条の会」にとって不利な情勢に変わりつつある。
小森陽一の話を聞いていると、少数になった護憲の人々が何か一生懸命に肩を寄せ合っているような、弱々しく心もとない情景が目に浮かぶ。護憲なり九条の立場というのは、ここまで異端の表象を自ら持たなければならないのかという侘しい気分になる。小森陽一は地域の活動家たちを励ますメッセージを与えているのだが、活動家ではない私のような人間が素朴に読むと、運動論の中身に哀感が溢れているようで、九条の将来に暗く悲観的なものを感じざるを得ないのだ。力強くマスコミの世論を押し返している実感がなく、一年後に確実に自分たちは多数派に戻っているという展望を確信できない。護憲あるいは九条護持を正論に引き戻すモメンタムが短期で形成されるとは思えない。「国民投票で勝つ」戦略論になっていない。この全戸訪問論と地域集会論、そして九条布教活動家の精神論が「国民投票で勝つ」ための全てだとしたら、これでは勝てないと焦るし、他のことも考えろと言わざるを得ない。
「九条の会」の組織について、センターの機能が著しく弱いという点は前に述べた。「九条の会」について何らかニュースを知ろうとした者は、まずは
オフィシャルサイトをビジットする。ところがこの司令部のサイトにあまり多くの情報がなく、更新頻度も非常に少ない。例えば、「
最新情報と運動のページ」という項目をクリックすると、今年の2月に発行された岩波ブックレット、昨年の11月に製作されたリーフレットの紹介があり、さらにその下に昨年7月の有明講演会の報告が掲載されている。一年前の情報だ。有明コロシアムの大集会の情報はトップページにも紹介があるが、一年前の活動報告である。「最新情報」と呼ぶにはあまりに古すぎるのではないか。全国拠点が4700に拡大したという情報はニュース提供されていない。恐らくそれはメールマガジンの方に編集されているのだろうが、メルマガではなく「九条の会」のサイトの方に直接出さなければ意味がない。何でメルマガで広報活動をやっているのだろう。
リーチとか効果という問題を考えたことがないのか。センターのサイトの更新はデイリーにやるべきで、九条に関心のある人間の耳目を、改憲派も護憲派も、全て毎日ここに釘付けにしなきゃいけない。例えば、新しい「九条の会」がどこかの地域で発足したら、すぐにその情報をセンターのサイトで告知すればよいのだ。各地の「九条の会」が開催する集会や講演会の情報も、センターで毎日アップデイトして発信すればよいのだ。4700拠点あるのだから、それだけで膨大な情報量になるし、その運動のボリューム感やスピード感こそが、まさに政治のモメンタム(勢い/追い風)を創出するのである。運動の加速と加熱と増殖を伝える媒体こそがセンターのサイトなのだ。現在の「九条の会」のサイトは、人の関心に熱を伝えるのではなく、逆に熱を冷ましている。
PDFファイルは多用してはいけない。あれは役所が人に見せたくない情報を嫌々ながら「公開」するツールだ。人に見せたい情報をPDFにするべきではない。
4700拠点の所在やコンタクトを出しておけば、そこから問い合わせや入会希望者も出るだろう。現在だと、各地の「九条の会」は個々バラバラの分散状態で、ネットを見る者は周辺のどこに「九条の会」があるのか分からない。伝道師の訪問販売を待つしかないことになる。何故そういう非効率な方法を選ぶのか。ビジネスも政治も基本は同じで、顧客はそのとき商品に関心を持っていても、欲しい情報がその場で得られないと、すぐに興味関心を失ってしまう。購買の意欲や動機を萎ませる。他の対象に関心が移る。消費者としての自分自身がそうだろう。だから事業や政治をする者は、機会をロスしては絶対にいけないのだ。「九条の会」がサイトを設営するのなら、「九条の会」について全ての情報がワンストップで照会閲覧できる仕組みを作ればいいではないか。そのための資源の投入を惜しんではいけない。現在、「九条」や「護憲」についてはあまりに多くの
サイトが
乱立して
いて、効率の悪い情報発信活動をしている。
情報発信系統を統合一本化すべきだ。それから、「九条の会」や「九条」のシンボルマークも一本に統合すべきである。シンボルとブランドは分散乱立させてはならない。オーガニゼーション・アイデンティティ、アクティビティ・アイデンティティは一本で訴求するべきだ。ブランディングの基礎である。ついでながら、「
マガジン9条」のサイトも非常に使いづらい。コンテンツに辿り着くまでのルート、すなわち「前座」が無駄に長い。見せるべきものはトップに持って来ないといけないのである。それがウェブマーケティングの基本だ。「マガジン9条」のサイトは、実にルーティンワークの印象が強く、下手な運動組織にありがちの、適当にメニューを揃えて「何とかノルマで回している」雰囲気が伝わって来る。メッセージを読者に伝えたいという気迫が感じられない。「マガジン9条」も基本的に媒体戦略がメルマガ・オリエンテッドで、ブログやサイトは二次的な手段になっている。こういう判断がどこから出て来るのか私には全く分からない。
メルマガなんてもう古いのだよ。捨てていいのだ。