日本代表はよく戦ったが、結果的に監督のヒディンクとジーコの采配の差が出てしまった。実は近所の商店で予想クイズのような催しがあり、私は日本代表の三戦全敗と賭けていて、どうやら賞品が狙えそうな状況になった。私が引き分けなしの三戦全敗と賭けた理由は、正月の
記事に書いたとおりである。豪州チームの実力について事前の知識は特に無かったが、日本代表の実力とヒディングの監督能力を鑑みて、総合的に豪州の勝利を予想したのだった。サッカーは監督の差が試合結果にハッキリ出る。チーム作りもそうだし、試合運びもそうだ。昨日の試合では、後半にヒディンクが投入した攻撃要員のケーヒルとアロイージが、39分から次々と得点して試合を決めた。豪州の交替選手の活躍は目を見張るものがあったが、日本側の選手交替は遅れに遅れ(いつものことだが)、攻撃要員の大黒将志を投入したのは後半のロスタイムで、しかもそれも裏目に出て守備が薄くなり、最後の3点目の失点を許した。1点を守り抜くのなら、稲本潤一を出さないといけない。
セルジオ越後がスポーツ新聞でやはりジーコの采配を酷評している。前半終了時点か後半の早い時期に疲れていた福西崇史を代えて、遠藤保仁か稲本潤一の守備的ボランチを使うべきだったと書いている。福西崇史を代えた方がよかったかどうかは分からないが、柳沢敦を代えるのはもっと早い方がよかった。茂庭照幸の起用も正解だったのかどうか。逆にヒディンクの選手交替は素晴らしかった。まさにヒディンク・マジック。前半、日本はラッキーなゴールで得点はリードしていたが、試合全体を見れば豪州の方がボールを支配していて、むしろ守勢に回っていた。日本の方が暑さに強く、足も速くてボールを支配する確率が高いだろうというのが事前予想で、中田英寿もそのようにゲームを想定したようだが、蓋を開けてみると、日本代表のパスワークは決して素早いものではなかった。スピードで劣り、試合の主導権を豪州側に握られていた。が、日本にはいつものように鉄壁のディフェンスがあり、宮本恒靖と中澤佑二がボールをゴールに寄せ着けなかった。
フリーキックは川口能活の天才が止めていた。守備は見ていて安心だった。日本代表のディフェンス能力は世界の中でもかなり高い。W杯開始からの十試合ほどを見たが、日本代表の守備は他のどこのチームより上ではないかと思わされた。日本代表のフォーメーションは菱形の四角形になっていて、ゴール前の宮本恒靖、トップの高原直泰の二つの頂点をMFの中田英寿と中村俊輔が中継管理する。攻撃の司令塔は中田英寿と中村俊輔の二人で、守備の司令塔は宮本恒靖。中村俊輔と中田英寿の守備参加も抜群で、日本の守備は見応えがあった(逆に攻撃は常に見応えがない)。その鉄壁の守備が一瞬に崩れたのだけれど、二つの問題があって、一つは交替要員の問題。後半に入ると豪州の選手の動きが悪くなって、いかにも暑さで疲れているように見えた。特にビドゥーカに疲れが出ていて、いくら攻めても日本のゴールが割れず、半分諦めたような表情さえあった。ところが、ヒディンクが後から送り出したケーヒルとアロイージは全く違って元気いっぱいだった。
この二人の勢いに圧倒された感じがする。豪州の先発攻撃陣の方が先に疲れて動きが鈍くなっていたが、日本の守備陣の方も少しづつ疲れが出ていたはずなのだ。ケーヒルとアロイージのスピードは他の選手とは全く違っていたように見えた。もう一つの問題は、川口能活の油断で、あそこでロングスローにパンチングに飛びかかったミスがある。それまで、川口能活は三度か四度スーパーセーブのパフォーマンスを見せていて、流石だなあと唸らされていたが、あの場面の判断は少し冷静さを失っていたのかも知れない。2点目と3点目は、やはり1点目の失点の動揺が大きかったのではないだろうか。1点を失って、日本代表の全員に疲れと焦りが出た。選手たちはどうか分からないが、周囲は豪州戦を少し安易に考えすぎていたところがある。ドイツに入って日本代表の調子がよく、特に開催国のドイツ相手に2対2で引き分けていた結果が、気分的に過剰な自信に繋がっていたのではないか。中田英寿が試合前に不満を口にしたのは、それを警戒していたためだろう。
もう少しチームとして緊張して張り詰めていてもよいのだ。最後まで弛緩しないように固めなければいけないはずだ。ジーコはチームを緊張させようとしない。トルシエは徹底的に緊張させた。自分の意思に従って最後まで動くように全員を統制した。今度の代表は事実上の監督を中田英寿がやっている。中田英寿がトルシエの役割を受け持っていて、アジア予選のときは福西崇史のような若い選手と激突しながら、連携を厳しく統制する働きを示していた。誰かがそれをやらないといけない。ドイツへ来てから、チームの調子がよく、あまり口煩く言わないように努めていたのだろう。トルシエのときは皆が嫌々ながら服従してついて行っていた。当時のメンバーも多く、気持ちとしては個性と自由を尊重してくれるジーコの方が誰でもやりやすい。特に中村俊輔はそうだろう。MFの技量で中村俊輔に劣った事実を認めた中田英寿は、二人司令塔体制を組み、トルシエ的な独裁をチームに徹底させることを憚った。四年前のトルシエ日本に対する複雑な思いを現在の代表は引き摺っている。
トルシエ型だったから決勝Tまで進めたと言える。王貞治が何度も言うように、勝負事は勝たなきゃいけない。三戦全敗では話にならない。