
金剛山で行われた金英男の会見は印象として実に不誠実で、日本国民の憤激を買うものだった。横田めぐみ自殺に関わる深刻な一件を話すときも、不真面目に唇から舌先を出したり、薄笑いを浮かべるような表情が時折見え、横田めぐみに対する夫としての思いやりが感じられず、この男の人格を大いに訝らせるものだった。会見を聞いていた横田滋の怒りがよく伝わる。侮辱されたと感じるのが当然だ。金英男と横田めぐみの夫婦仲がおかしくなったのは金英男の女癖の悪さが原因だという説があるが、昨日の会見を見ると、その噂の信憑性が俄かに高まった感がする。一昨日に登場した時点から金英男の印象は悪かった。あの男が、あのような形で出て来るのなら、やはり横田夫妻は訪朝しない判断でよかったのかも知れない。言葉よりも表情が侮辱的だった。日本国民と横田夫妻に対して挑発的だった。それは計算の上で台本どおりにやったのだろうが、人情の機微が感じられず、見ていて不愉快だった。

金英男は、北朝鮮に「拉致」された経緯について話すときは記者団の方を向いて、何も見ずにそのまま語っていたが、横田めぐみの話をするときは、机に置いたメモを下目で覗き見て、一字一句間違えないように注意しているのがよく分かった。日本に対する北朝鮮の公式ステートメントだから間違ったら大変だ。が、それを読み上げる仕草の中に問題があり、普通の人間なら、そこに良心の呵責とか内面の葛藤とかが一瞬であれ表出されるものなのだが、金英男の場合は「任務の遂行」に開き直っていて、日本を挑発することが会見の目的なのだという意図を薄笑いの表情で露骨に演出しているようなところがあった。日本に対する侮蔑の態度を韓国の国民の民族感情に訴えて、竹島問題で反日感情が高まっている韓国の国民の共感を誘おうとしている。北朝鮮のやり方は強引で不当だが、私はそれを政治として受け入れた韓国政府の姿勢を支持する。拉致問題の謀略を仕掛けているのは日本の政権と右翼だから。

韓国の国防を考えたら今回の措置はやむを得ない。韓国に戻った母親の崔桂月と姉の金英子は、これから平壌を訪問し、南北往来するようになるだろう。寺越友枝と寺越武志と同じようになる。やむを得ない。右翼がイデオロギー的な理由で寺越友枝や崔桂月を非難糾弾するのは間違っている。わが子なのだから会いに行くのは当然だ。寺越友枝だって北朝鮮の政治体制を支持しているわけではない。やむを得ない選択なのだ。日本の右翼と安倍晋三の陰謀は今回の一件で打撃を受け大きく挫折させられた。が、問題は韓国の世論、特に新聞で、この点は昨日(6/29)の「報道ステーション」の加藤千洋や、本日(6/30)の「朝ズバ」の嶌信彦が指摘していたが、韓国の三大紙である朝鮮日報と東亜日報、中央日報が日本寄りの立場で今回の問題を論評し、韓国政府の拉致問題への対応を批判している点である。盧武鉉政権批判のために日本の拉致問題に便乗し、日本の政権と右翼に阿る言論態度を終始見せている。

拉致問題を政権批判に利用し、日本の右翼の対北朝鮮強硬路線を利用しているのだ。私は韓国の新聞のこの意図がずっと理解できず、一体何を考えているのだろうと不審に思っていた。最近になって分かったのは、盧武鉉政権が新聞法を制定して、三大紙の言論独占体制に楔を打ち込んでいたという事実である。この事実はテレビ朝日の「サンデープロジェクト」で知ったが、ここでは法律の中身についての詳細な解説は抜きにして、私は盧武鉉政権の新聞法を支持する。盧武鉉政権がいかに革命的な性格の政権であるか、その一端がこの法律によくあらわれている。この法律のせいで、韓国三大紙が、あまりに急進的な盧武鉉政権に対してボイコットキャンペーンを始めたという事情が背景にある。そして経済状態が
悪化して格差が拡大し、政権の支持率が低下し、政権を叩くことは新聞にとって国民の側に立った言論行為となる。その延長線上に今回の三大紙の拉致問題における日本支持と韓国政府批判がある。

韓国の新聞には、ぜひとも安倍晋三と救う会がどのような政治思想の持ち主か検証していただきたい。日本で圧倒的な世論となっているように見える「拉致問題」なるものが、実際のところどのような政治であり、それが韓国にとってどのような意味を持つものか、見誤ることのないようにしていただきたい。経済問題と拉致問題とは根本的に意味が異なる。拉致問題で日本の右翼と連携することは、すなわち19世紀末の韓国の失敗と同じ轍を踏む危険であって、国を奪われ国を失う羽目に至ることを韓国の新聞人は理解する必要がある。今回の盧武鉉政権の選択は韓国にとって正解だ。新聞は盧武鉉政権を叩いてはならない。金正日政権と安倍晋三政権と、韓国にとってどちらが脅威か。考えなくても答えは簡単だろう。韓国が「拉致問題」の本質を見誤り、日本の右翼に接近するような事態になれば、日本は簡単に北朝鮮との戦争に踏み切ることができる。韓国の世論が鍵なのであり、一枚岩で結束して、日本に隙を見せないことだ。
以上の問題とは別に、この二日ほど考えたことは、ひょっとしたら横田めぐみは死亡していて、横田早紀江はそれを知っていて、娘の死を知っているからこそ、あのように強硬な態度をとっているのではないかという推測だった。本当に生存を確認していれば、あれほど強硬に北朝鮮との戦争を主張するだろうか。北朝鮮と日本が戦争を始めたら、真っ先に生命の危険が及ぶのは捕われの身の拉致被害者ではないか。横田めぐみの死を横田夫妻が知っていたら、という仮定を入れるとパズルが解けように理解できる。横田早紀江の本心は、愛娘の救出ではなくて報復なのだ。復讐が真の動機なのではないのか。