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朝日新聞の謁見録報道 - 昭和天皇の平和主義演出とその欺瞞
b0087409_16385371.jpg終戦から約一ヵ月後の9/25に昭和天皇が米紙記者と行った謁見録(回答文写し)が発見され、昨夜の報道ステーションの番組の中で詳しく紹介された。先週の富田メモに続いて昭和天皇に関する新史料報道の第二弾となる。朝日新聞によると、謁見録は番組制作者による情報公開請求に宮内庁が答えた結果明らかになったものだが、この請求と公開がどの時点でなされたものかはよく分からない。今回は朝日新聞だけの報道で、各紙が一斉に続いた富田メモとは状況が異なる。推測としては朝日新聞が7/19の富田メモ開示を受けて、そこから今回の謁見録報道の企画をスタートさせ、放送用コンテンツの編集を始めた事情が考えられる。コメントも含めて時間は10分間ほどだったが、モノクロフィルムが不足なく挿入され、最近の粗悪なテレビ朝日の報道品質からすればレベルの高い歴史ドキュメントに仕上がっていた。富田メモほどの衝撃度はないが、歴史史料としては十分に価値があり、特にこの時期には政治的に関心を惹く。



b0087409_16391724.jpg企画から製作までの期間が一週間ほどあったのではないかと思ったのは、番組報道の中に米国での取材映像が入っていたからで、メリーランド大学名誉教授のセオドア・マクネリーや謁見したクルックホーン記者の甥のインタビューが含まれていた点である。特に日本国憲法研究者のマクネリーのコメントは、今度の謁見録報道のプロジェクトを動かした朝日新聞(テレビ朝日)の意図と目的が明確にメッセージされているように感じられる。幣原喜重郎の原文と宮内庁の英文回答書との史料比較や五百旗真のインタビューもあり、作業的にも二日や三日で簡単に製作できるコンテンツではない。朝日新聞の結論は、日本国憲法の骨格をなす平和主義の思想が、この昭和天皇の記者会見の時に初めて国家意思として表明されたとするものだった。昭和天皇は回答文の中で「銃剣やその他の武器を使って恒久平和を確立し維持することは困難で、平和の問題は軍事力に頼らず自由な諸国民の協調によってのみ解決される」と言っている。

b0087409_16392775.jpgこの言葉は幣原喜重郎が作成した回答文原案にそのまま沿ったものであり、その幣原喜重郎の原案は、9/17に外相に就任した吉田茂と相談して練り上げたものであった。幣原喜重郎と吉田茂が原案を書き、天皇の名前で米紙記者に回答された言葉は、確かに戦後初の日本の国家意思の表明と呼ぶにふさわしく、その中に後の平和憲法の文言とほぼ同一の思想(非武装国際協調の平和主義)が表現されていた点は大いに注目されて然るべきだろう。古館伊知郎は、「米国に押しつけられた憲法だと言われてきたが、この事実は平和憲法の意味を考える上で重要ですね」と局の報道部長から指示された台本を読んでいた。護憲派にとっては歓迎すべき報道とメッセージだが、同時に先週の富田メモに続く「昭和天皇=平和主義者」の思想像を念押しする演出政治でもある。嘗ては左翼から昭和天皇を防衛する論理で使っていた言説が、今は右翼(靖国主義)の暴走を抑止するための言説装置として使われている。同じ言説の政治的意味配置の逆転現象。

b0087409_16393912.jpg前回の記事で紹介した「敗北を抱きしめて」下巻の最初の部分が、ちょうどその9月の場面を描いていて、ニューヨークタイムズの一面記事の話も登場する。朝日新聞の検証報道ではこの回答文の作成について幣原喜重郎と吉田茂の役割を重視していたが、ダワーは重光葵と外務省が草稿を作成したと書いている(下巻 P.25)。この点は史実としては朝日新聞の方に軍配を上げるべきだろう。が、ダワーを読むと、朝日新聞が見せていなかった経緯の全貌が見えてくる。朝日新聞の報道は「昭和天皇=平和主義者」の表象訴求と、戦後日本の非武装平和主義の原点に着目する歴史認識だが、実際のところは少し違う。幣原喜重郎の平和主義の原稿も、その目的は天皇を平和主義者として演出するためのものであり、さらに言えば、天皇の身柄を占領軍による戦犯逮捕から遮断するための政治の一部だった。報道ステーションでも出ていたが、会見一週間前の9/18には、米連邦議会は天皇の戦争責任を追及するよう米政府に提案を出していた。

b0087409_16395013.jpg9/25の記者会見も、二日後の9/27のマッカーサー訪問も、天皇を戦犯責任から防衛するための懸命の策だった。驚くことに昭和天皇は、真珠湾攻撃について「宣戦の詔書は、東条大将が使ったように使う意図はあったのでしょうか」という米紙記者の質問に対して、「東条大将が使ったように使われることは意図していなかった」と回答している。これは幣原喜重郎の回答原案である「戦争の作戦上の詳細は陸海軍の最高指揮官に任される」に自ら筆を入れて、東条英機に全面的に責任を転嫁するものである。ニューヨークタイムズは一面記事の見出しに「天皇、奇襲攻撃で東条を非難」と書いた(P.25)。先週から始まった昭和天皇の新史料発見のニュースは、現実政治的には小泉首相と安倍晋三の靖国神社公式参拝路線に縛りをかける方向に作用するもので結構なことだけれど、報道に釈然としない気分がつのるのは、そうしたニュースが出れば出るほど、昭和天皇は戦争を望んでおらず、戦争中もその終結に心を砕いていたという神話のオーソライズが進むからである。

b0087409_1640214.jpgこの同じ号のニューヨークタイムズに載った補足記事では、木戸幸一の言葉が次のように引用されている。「裕仁は真珠湾攻撃について事前に何も知らなかった。あとで宮中のラジオで聞いて知った」(P.25)。だから私の中では、この種の報道に接すれば接するほど、逆に昭和天皇の自己欺瞞と戦争責任がクローズアップされ、真実の追及と暴露への衝動が高まってしまう。朝日新聞によれば、この回答文の意義は戦後日本の平和主義が憲法制定以前に発信されたものとしてスポットライトが照射されるが、少し離して見ると、昭和天皇の戦争責任回避へ向けての必死の政治という動機以上に、もっと大きな歴史的真相が見えてくるように思われる。それは具体的にはポツダム宣言の受諾という重い現実であり、ポツダム宣言の第6項や弟11項を前提にして、その上で敗戦国日本の今後の姿勢を国際社会(戦勝国)に表明するとき、幣原喜重郎的な非武装国際協調の国家再建路線が浮かび上がるのは実に自然な思考なのであって、他に一体どのような態度選択があっただろうか。

と、ここまで書いて、さらにネットの中を調べていたところ、この今回のテレビ報道のソースが、大阪の朝日放送が今年5月1日に放送した憲法特集のドキュメンタリー番組であった事実が判明した。なるほど。確かに報道ステーションの無能なスタッフがわずか一週間であのようなコンテンツを作れるはずがない。憲法にフォーカスした番組を朝日放送が製作していて、それをテレビ朝日が(富田メモの靖国政局に合わせて)二次的に流用しただけだった。何でわざわざ(神戸の)五百旗真なのだろうと訝しんだが、これで謎が解けた。しかし、それなら朝日放送の番組制作者を呼んで、生のスタジオで話を聞くべきだったのではないのか。

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by thessalonike4 | 2006-07-27 23:30 | 戦争 ・ 昭和天皇 ・ 靖国問題
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