前回の問題意識の続きだが、来夏の参議院選挙をめぐる動きとして平和共同候補擁立の運動がある。が、ほとんど
ニュースになっておらず、一部にしか情報が伝わっていない。参院選に向けて最も着々と体制を整えているように見えるのは民主党で、生活者ネットの
大河原雅子を東京選挙区で担ぐなど左側にバランスした集票演出を工夫して、政権交代実現のために万全の布陣を敷きつつある。全野党共闘で安倍自民党を倒そうという声はあるが、そうした声が説得的に政党に届かないのには理由がある。まず民主党だが、民主党には他の野党と無理に共闘する必要はない。地域によっては社民党と共闘して票を受けたり流したりはあるだろうが、全国ベースで社民党や共産党と連携する必要はないのである。民主党が目指すのは単独での参院第一党で、そうなれば自動的に自公は参院で過半数割れになる。現状ではその可能性は十分にあり、そのために敢えて左側にバランス配慮した候補者を公認しているのである。

一部の地方選挙区での民主党の左派系候補者擁立の動きは、社民党の吸収合併を見越した政治的布石であるように見える。社民党の民主党への吸収合併は昨年の衆院選の前後にも噂があり、あの郵政解散のときには、解散の翌日に副党首で国対委員長だった
横光克彦が民主党に鞍替えを発表するというハプニングもあった。先細り感は否めず、参院選に向けての取り組みも活発化していない。候補者を擁立して選挙運動する組織的体力がないのだ。実際に吸収合併となれば、数少ない在籍議員の中で論議となり、反対するメンバーも出てくるだろう。一方の
共産党はそれを待っているように見える。無理に社民党との共闘などに頭を悩ませなくても、熟した柿が枝から落ちるように、社民党の方が先に潰れてくれるから、社民党消滅後に社民党支持の護憲派有権者の票をいただこうという皮算用なのだろう。平和共同候補の運動が盛り上がらない事情の一つとして、こうした「社民党消滅」の問題が見え隠れしている。

あのまま
前原誠司が代表を続けていれば、社民党の民主党への合併も立ち消えになったと思われるが、偽メール事件で前原誠司が失脚して小沢一郎が代表となり、党の政策基調が相対的に左に寄り始めたために、社民党の民主党への吸収合併が俄かに現実味を帯びてきた。9月の代表選の前に小沢一郎が発表する基本政策は、民主党の従来の路線であった新自由主義を少なからず後退させて、格差是正を訴求する政策演出の化粧が施されたものになるだろう。社民党が民主党に吸収されると二大政党制はさらに強固なものになる。
山口二郎の理想に近づく。民主党支持の政治学者も歓迎するし、敵が消えた共産党も喜ぶし、左サイドの表面は歓迎の声が多くなるだろう。
第三極を求める側にとっては一段と可能性が薄れる事態となる。仮に吸収合併した場合、社民党票の多くは民主党に流れ、恐らく共産党には流れない。そして共産党全体の票が増えるかと言うと、決してそうはならないだろう。逆に共産党票が民主党に流れる。

そのあたりに共産党の考え違いがあるが、党内では状況を客観的に理解できないだろう。何と言っても「
社民潰し」は七十年の歴史的悲願でもある。仮に現在の社民党票が百票あったとして、合併後に民主党に流れる票は四十票、共産党に流れる票は二十票、そして棄権票が四十票というのが私の予測である。民主党に流れるのと同じほど棄権票も多い。何故なら、社民党に投票していた有権者は二大政党制と民主党に根本的な不信感を抱いている市民層であり、民主党が憲法改正を唱導している姿勢(
創憲路線)を容認できないからである。憲法改正に危機感を抱いて社民党を支持していた有権者にとって、社民党が解党して民主党に併合される事態は裏切りに映るだろうし、政治不信で中央の政治に関心を失う厄災事に違いない。民主党も支持せず、共産党も支持しないまま、国民投票で改憲を否決する可能性に期待を残すようになるのではないか。年齢的には五十代から上の層になる。民主党は来年の参院選までは改憲論を棚上げする。

さて全野党共闘の話だが、客観情勢としては参院選は民主党の有利であって、
争点が憲法以外に組まれた場合、民主党が負ける可能性は殆どない。普通の争点で普通の選挙が行われれば民主党は勝つ。だから現時点で政策協定や選挙協定を民主党が模索する必要はないのである。もしも間違って民主党が共産党などと政策協力などをやる愚をおかせば、民主党は一気に支持を減らす危機に直面する。民主党を支持している保守票が自民党に逃げるからである。財界もそっぽを向く。米国からも見捨てられる。それだけは絶対にやってはいけないのであり、小沢一郎も共産党とは政権を組まないと明言した。
全野党共闘の可能性が出るのは選挙が始まった後からであり、民主党単独では自民党政権を倒すに至らず、全野党が結集すれば自民党を破れるという情勢展望が生まれた一瞬である。情勢を見ながらマスコミが全野党共闘を支持して、保守票を民主党から逃がさずに政権交代の夢に繋ぎ止めたときである。政治の魔術はエモーショナルな瞬間を作る。
が、それは小沢一郎にとってアクロバットであり、できればアクロバットはせずに政権交代を実現したい。
民公同盟の政界再編が実現できれば、無理な全野党共闘のアクロバットには手を着けずにすむ。表の政策では格差是正の社民的文言で票を誘い、その裏で財界に対中関係是正を訴えて政治献金の倍額を求め、そして真の戦略としては信濃町との秘密同盟を期す。政権交代戦略のストラクチャーとしては周到で絶妙であると私は採点する。