
来夏の参院選について一般情勢としては民主党有利と予想していたが、ここへきて少し様子が変わってきた気配がある。少なくとも今年の秋の政治だけを展望すると、状況は相当に安倍自民党有利に推移する可能性が高い。最近のNHKの7時のニュースは毎晩のように総裁選の報道を流している。見ていて面白くも何ともなく、個人的には関心の向けようもないが、安倍政権誕生に向けての長い宣伝であり、これだけ入念に宣伝を刷り込めば組閣時点での支持率はかなり高い数字をアチーブするだろう。安倍晋三が話している中身は新自由主義政策の継続徹底と憲法改正である。村上世彰が逮捕された頃に世論として勢いを得つつあった新自由主義批判の論調が、安倍晋三の登場によって再び背後に退きつつある。今年の5月から6月頃は格差社会反対の世論が力強く一般化して、その期待が小沢民主党への支持に向かうように見えたが、最近のマスコミ報道では「再チャレンジ」の言葉によって化粧直しされた新自由主義路線が、再び日本の政策の主流の位置に戻りつつある。

私は小沢一郎が打ち出す民主党の新政策に注目していたが、期待は少なからず裏切られた。もう少し社会民主主義的な政策内容が柱として入るのではないかと思っていたが、蓋を開けてみたら、所得税・住民税の半減と中央と地方を現在の四層から二層構造にスリム化するという話だけしか出てこなかった。小沢一郎の減税策については、早速、それでは税源をどうするのかという批判が上がっている。消費税を福祉目的税にするという構想とセットらしいので、普通に考えれば消費税が上がるのだろう。小沢一郎の減税案で見逃せないのは、所得税の最高税率をさらに引き下げるという点であり、所得税は現行の「10、20、30、37%」の4段階から「5、10、20%」の3段階に簡素化して引き下げるとしている。これはまさに新自由主義の税制政策であり、われわれが期待したものとは全く異なる。中央と地方の行政のスリム化の話も、何かイメージとして「拒食症」的な感じがして、公務員の削減と行政サービスの削減が自己目的化している印象を受ける。「小さな政府」路線そのものだ。

全体として小沢一郎の今回の基本政策はコンセプトが曖昧で、めざす社会像も不明確であり、これまで民主党が議論してきた「第三の道」と小沢一郎の自由党以来の持論が折衷されて中途半端な表現に落ち着いた感が強い。この「基本政策」で国民の納得と支持を得られるのか、率直なところ私には大いに疑問に思う。マスコミは「税源はどうする」を含めて小沢一郎の基本政策の曖昧な点を突っつくだろうし、そこで民主党が有効な反論をできない場合は、安倍晋三の再チャレンジ路線の方が逆に説得的なイメージを持って国民に響く状況になるかも知れない。小沢一郎はこの夏、選挙対策で地方を駆け回ったが、政策構想の方が疎かになった点は否めない。ブレーンを集めて明確なコンセプトを固め、それに(再チャレンジのような)名前をつけるべきだった。サイトもイメージ一新したので、きっと政策も「共生」を機軸に大胆にリニューアルして、安倍晋三の「再チャレンジ」に対して明確な対抗軸を設定するだろうと予想したが、そのような展開にはならなかった。政治家としての小沢一郎の古さを感じる。

今月は組閣人事に世間の耳目が集中する。そこでサプライズをやれば内閣支持率が沸騰する。沸騰した支持率の下で国会が開幕し、教育基本法改正案が審議される。今国会前半の目玉が教育基本法改正で、通常国会では成立の一歩手前まで行った。基本的に自民党案と民主党案の間に違いはない。座長として民主党案を取り纏めた
西岡武夫は「教育基本法改正促進委員会」の最高顧問で、一瞥すると西岡案の方が与党案よりも過激な右翼思想に
浸染されている。あの民主党案で一体どういう論戦になるのか。郵政民営化のとき以上に滑稽で空疎な国会の顛末になる予感がする。「民主党は教育基本法改正に賛成なんですか反対なんですか」、「教育基本法改正には賛成だが与党案の改正には反対だ」。仮に論戦になったとしても、このパターンの繰り返ししかないが、今回は論戦になる可能性も殆どない。両方の改正案の思想が同じで、要するに戦後民主教育の否定という基本軸において同一だからだ。テレビ報道を見ている国民は、民主党が与党案に反対している理由が理解できないだろう。

法案は可決される。私の予想では、補選前の10月下旬には衆院を通過するだろう。民主党の曖昧な立場が露呈され、左派からの失望と右派からの失笑を買いながら補選の投票日を迎える。政権発足から一ヶ月後だから安倍晋三の支持率は高いままだ。投票日は10/22。果たして民主党は神奈川16区と大阪9区で勝てるだろうか。ここで民主党が負けた場合、可能性として党内で前原誠司の右派が息を吹き返す公算が強い。その後に国会審議の焦点となる防衛省格上げ法案の対応について、前原誠司らの右派が党の主導権を握り直す局面が予想される。そして国会は安倍自民党のペースのまま年末を迎え、来年の国会では国民投票法案の審議が佳境に入り、さらに参院選を睨んでのネット規制法案が政府から出る。安倍晋三は憲法改正を政権公約に掲げて総裁に就任するわけで、当然、参院選でも憲法改正を争点にするべくマスコミを操作するだろう。プレ国民投票になる。その点はすでに予想した。4月の統一地方選もその前哨戦となることが考えられ、石原慎太郎は知事選を改憲キャンペーンの場にするだろう。
憲法改正の圧力が強まれば強まるほど、民主党は党内の結束が乱れて弱体を露呈する。それは教育基本法改正の審議から始まる。憲法改正が争点になった参院選で安倍自民党が勝利すれば、小沢執行部は退陣を余儀なくされ、再び党首に返り咲いた前原誠司が自民党との間で新憲法の条文調整に入り、その年の暮れまでには与野党合意の新憲法草案が出来上がっているだろう。
石原慎太郎があの時期に三選出馬を表明したのは、安倍晋三が石原慎太郎に出馬を懇請して、その対価として石原伸晃の入閣を打診したからではないかと私は見ている。経済産業相。加えてタレントの二男良純を参院選全国区候補に公認する取引もあったかも知れない。三年ほど前の話では、石原慎太郎は知事職の執務に倦み飽きて、都政は幹部に任せ、都庁に出勤もせずに自宅に籠もって小説を書いているという話だった。無理に老骨に鞭打つ必要もなかったはずだが、憲法改正の是非を問う参院選勝利に向けての橋頭堡として知事選を重視した安倍晋三が、土下座して石原慎太郎に出馬要請した可能性がある。
新著『小沢主義』は、発売のタイミングが総裁選に重なったこともあって、ネットも含めて殆ど話題になっていない。安倍晋三の『美しい国へ』と較べて対照的である。盛り込む政策内容や、そのプロモーションについて、内部で意見一致できなかったのではないかと私は疑っている。サイトのリニューアルと同じようにブレーンと代理店に任せればよかったのだろうが、小沢一郎が口を挟んだのだろう。まずブレーンが誰なのかハッキリしない。官僚だったのか、学者だったのか、顔が見えない。「小沢主義」というコピーワードは、代理店が提案したものとは違うだろう。センスが悪い。装丁もよくない。代理店を含めて民主党のスタッフサイドで提案したものがあったはずだが、小沢一郎が蹴ったのではないか。