安倍内閣の支持率が出た。朝日:63%、共同:65%、読売:70%。新聞はこの数字を歴代3位の高水準だと書いているが、果たして本当に高い数字と言えるのか。私の率直な感想を言えば、この数字はかなり低い。あれだけ大掛かりな
宣伝工作を何か月もやった挙句の結果としては、必ずしも成功の範疇には入らない。広報担当者の世耕弘成が一番よくわかっているだろう。不本意な数字であるはずだ。少なくとも朝日で70%、読売で75%のアチーブメントは欲しかったに違いない。昨日の
記事で示した評点基準に照らせば、この数字は可である。不可ではないが優でも良でもない。私は、支持率65%が大阪補選の勝敗の分岐点をなすという予想を前回述べた。補選は自民党にとって必ずしも順風満帆の状況ではない。この数字は陣営が内部で見積もっていた目標に対して明らかに未達である。未達と言えば、7割以上を必達目標にしていた総裁選挙でも結果は66%だった。この支持率の数字とよく似ている。
実は総裁選の投票結果と今回の支持率の数値結果とは内面的に大きく連関している。今回の世論調査で注目すべき点は、自民党が驚異的に支持率を上げたことである。
毎日新聞の調査では「
自民党支持率は前回調査比10ポイント増の42%で、14年ぶりに40%台を回復した」。14年ぶりの高支持率と言うことは、小泉内閣でさえ達成できなかった歴史的な快挙を実現したということである。この意味は何か。すなわち総裁選キャンペーンの奏功である。総裁選のプロモーションは、安倍内閣の支持率にはよく貢献しなかったが、自民党の支持率向上には絶大な貢献を果たしたのである。ズバリ、麻生太郎と谷垣禎一の二人の脇役の活躍が大きい。二人の脇役が絶妙の働きをして自民党への期待感を押し上げた。三人の配置と競争を演出した仕掛人(小泉前首相)の勝利と言えるかも知れない。総裁選レースを通じて麻生太郎と谷垣禎一は自信をつけ、単なる演出政治の道具的存在から大型の政治家に化けた。
総裁選で麻生太郎が136票、谷垣禎一が102票を取ったが、この数字が、実はそのまま今度の自民党の支持率に反映されている。つまり自民党支持率の42%(
毎日)というのは、安倍晋三単独の人気で調達した数字ではなく、麻生太郎と谷垣禎一への支持が積み上がった数字なのである。二人はこの事実をよく理解しているはずで、だからこそ谷垣禎一は今度の組閣に対して正面から批判の発言をしたし、幹事長ポストを逸した麻生太郎は堂々と不満の態度を明らかにしているのである。谷垣禎一は党内反主流、麻生太郎は政権内反主流の地位を固めた。小泉政権は小泉純一郎の人気で全てが支えられていたが、安倍政権は安倍晋三の人気だけで立っているのではない。安倍内閣支持率の少なくない部分は麻生太郎が稼ぎ出しているもので、自民党支持率の少なくない部分は谷垣禎一の貢献によるものである。その真相を森善朗は知っている。だから強気で
裏情報をリークして安倍首相に揺さぶりをかけられるのだ。
安倍首相の独裁と官邸の暴走を牽制しているのである。安倍首相は早くも亀裂を抱え込んでいる。党政調、つまり省庁官僚と業界団体と繋がった党部会との緊張関係が次第に浮かび上がって来るだろう。そこには森善朗と中川秀直と中川昭一がいる。青木幹雄もいる。彼らにとっては塩崎泰久や下村博文や山本有二は単なる小僧同然だ。予算編成で軋轢が生じる場面もあるだろう。政権内での摩擦の火種は麻生太郎で、早速、外務省を仕切る「
チーム麻生」を作って官邸に対抗する構えを見せ始めた。官邸の安全保障担当補佐官は小池百合子。小池百合子が日本版NSCと日本版CIAを推進する表の顔になる。さらに米軍基地再編を詰める中枢の担当者になる。当然、麻生太郎が口出しをしてくる場面が予想され、一年前の小林興起との戦いの再現があるような想像も浮かんでくる。麻生太郎は面白くないだろうし、官邸(塩崎・下村)と衝突する局面を考えて、クッションとして小池百合子を起用したという裏も考えられる。
小池百合子なら使いやすく切りやすい。安倍首相は党との微妙な権力バランスに加えて、麻生太郎との緊張関係を船出から引きずることになった。尊大傲岸な麻生太郎にとって、安倍首相はどうしても自分より格下の存在なのである。年齢も十歳以上の開きがあり、当選回数も倍ほど違う。頭脳も政策も自分の方が上だと思っている。成蹊大学より学習院大学の方が上だと思うのはリーズナブルかも知れない。それに何と言っても、吉田茂の方が岸信介よりブランドが上だという自負がある。若くて格下の安倍首相の家来になって頭を下げるのは苦痛だろう。そして仮に参院選で自民党が敗北して安倍首相が辞任した場合、自民党の総裁選は麻生太郎と谷垣禎一と福田康夫の三人で争われることになる。森派は福田総理実現に動くだろうが、実際に選挙になった場合、恐らく麻生太郎が選ばれる公算が強い。麻生太郎はそのことも承知しながら政権の一角で存在感を示すに違いなく、また安倍政権が長く続いた場合には総理総裁になれなくなる。
安倍首相は性格的に調整型の政治家ではない。専制専横を志向する権力政治家である。が、小泉純一郎のような際立った独断専行型でもない。安倍首相の決断力の無さや責任回避の臆病さは、例の竹島海域の調査船派遣問題で韓国と
揉めたとき、われわれの前によく露呈された印象がある。谷内正太郎に「妥協せず席を蹴って帰って来い」と厳命しておきながら、韓国側が腹をくくって席を蹴ったときは、一転して谷内正太郎に相手をホテルの駐車場まで追いかけさせ、韓国代表を交渉に引き戻す醜態を演じた。あそこで安倍晋三の政治家としての真価を韓国に見破られた感がある。あれ以来、安倍晋三は韓国に対する挑発をやめ、韓国との(些細なレベルの)トラブルを報じる報道がNHKのニュースから消えた。小泉純一郎的な「鉄火場の侠客」のパフォーマスを演じられない。結論だが、この内閣支持率65%(共同)の数字の中には、テレビ宣伝工作の「刷り込み」効果以外の要素として、麻生太郎の個人票が相当多く入っている。
テレビの「刷り込み」洗脳効果は時間とともに減衰する。支持率は自然に50%を割るだろう。人気は「刷り込み」が終わった今がピークである。そこで、仮定の話にはなるが、もし麻生太郎が閣外に出て、安倍首相だけで内閣支持率をカバーした場合、おそらく50%の数字は確保できない。確実に40%を切るだろう。ここから何が導き出せるか。要するに、あの「
国民的人気の高い安倍晋三さん」という話は虚像で、マスコミが捏造したフィクションだったということである。安倍首相の「人気」は虚像だ。森善朗と麻生太郎の二人がその真実を察知している。だから麻生太郎は平然と(オレがいなくていいのかと)ゴネられるのである。