
民主党55議席、自民党41議席、自公合わせて53議席で過半数に遠く及ばず、与党惨敗の結果となる。非改選を含めた合計でも自公は110議席に止まり、国新と無所属の全てを与党に引き入れても院の過半数を超えられない。野党が参議院を制圧する。梅雨が始まるこれからの季節は、今年は選挙予想の季節であり、紫陽花の花の色の移ろいを見るように、選挙分析と選挙後の政局分析の言説が交錯して世間の耳目を集めることになる。言説が回転する基軸は年金問題であり、選挙民の関心はそこから離れず、マスコミもそこから離れられない。政治評論家たちが選挙予想を出す。宮川隆義、福岡政行、岩見隆夫、田勢康弘、岸井成格。予想が最終的にどれほど正確だったかも重要だが、それ以上に重要なのは予想根拠の説明であり、その説得がどれだけ有権者に効果を与えるかである。選挙予想は選挙の事前にするものであり、敢えて言えば、選挙結果に影響を与えるためにするものである。評論家たちは中立を偽装しつつ自らが望む政治的方向へと視聴者を導くべく状況を説明する。イデオローグである評論家の選挙予想の目的は、予測精度の証明ではなくて世論の操作と誘導である。

民主党の選挙区36議席の内訳は次のとおり。一人区で議席を取る選挙区は、岩手、秋田、山形、栃木、山梨、三重、滋賀、奈良、岡山、山口、香川、高知、長崎、大分、沖縄の15選挙区。複数区で議席を取る選挙区は、北海道、宮城、福島、茨城、埼玉、東京、神奈川、千葉、新潟、長野、静岡、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、広島、福岡の18選挙区全区。このうち、東京、千葉、愛知の3選挙区で民主党は2議席を奪い取る。民主党の参院55議席は前回04年参院選時の議席数52を3議席上回る数字。このときも比例区は19議席で、同じ年金で風が吹いている今回も同様に比例19議席とした。投票前1か月半の現時点での予測としてはリーズナブルな数字と言えるだろう。民主党は党内の楽観論を引き締めていると
報道されているが、その「楽観論」の中身を数字であらわすと上のようになる。マスコミが風を吹かせた方が大勝する現行の保守二大政党の政治システムの下では、マスコミの争点設定と世論調査で投票前に勝者が確定されてしまうのであり、蓋を開けるまで勝敗の行方が分からない接戦の選挙はあり得ない。公示日直後に勝者は決定づけられる。

2年前の総選挙(郵政民営化選挙)がそうだったし、3年前の参院選(年金未納選挙)がそうだった。6年前の参院選(小泉旋風選挙)もそうだったし、思い返せば9年前に橋本龍太郎が
敗れた参院選(投票率向上選挙)もそうだった。マスコミが先行して勝者を選定し、追い風を吹かせ、投票日までの2週間は事実上勝者が確定した演出報道(=お祭り選挙)となる。公示日直後の時期にモメンタムで差をつけられた側は形勢挽回が不可能となる。マスコミを敵に回して悪役として選挙を戦わざるを得ないからである。保守二大政党制下での日本の選挙のパターンがかかるものであり、アドミニストレータであるマスコミが自由自在に選挙に介入できるシステムが固まり、マスコミ選挙の傾向が年を追って露骨になり、操作するマスコミと操作される大衆という関係項でのみ選挙結果が決定される現状を考えたとき、今回の安倍自民党に勝利の方程式はあるだろうか。方程式として一年かけて仕込んできた憲法改正の争点化は年金で吹っ飛び、すっかり国民の関心の背後に退いてしまった。切実な年金問題の前に憲法改正の是非などナンセンスであり、関心のプライオリティは当然下がる。

時間を逆算したとき、公示日までに自民党がモメンタムを逆転させるメイクドラマは考えられず、状況的には、むしろ逆に、ポスト安倍の政局談議や政権組み換えの政界再編の方に政治評論家たちは関心と話題を振り向けて行くだろう。評論家たちが安倍首相を見放す。テレビ報道の現場が長く続いた「電通の頚木」に対して抵抗の姿勢を見せ始める。そして安倍晋三は、嘗て電通とテレビが小泉政権下で捏造して既成事実化した「国民に人気のある政治家」の仮面を剥ぎ取られ、虚像が崩れ、決断力がない無能な三世政治家の実像が剥き出しとなる。今回、年金問題で怒って民主党に一票入れる有権者は、3年前に同じ年金問題で憤激して民主党に投票した同じ有権者であり、そして2年前の総選挙で小泉純一郎の郵政改革に熱狂して一票入れた同じ無党派層の人々である。彼らは自民党でも民主党でもよいのであり、政党に対して特別な執着など無い。マスコミが風を吹かせる保守政党(責任政党)に一票を入れる。彼らは常に「政治を変えるため」に投票するのであり、「税金を無駄使いする日本の官僚システムを改革して自分の生活をよくするため」に投票する。それはマスコミが教えてくれる。

民主党は今度の参院選挙で勝って衆院解散に追い込むと言っている。が、予測するなら、実際にはそれほど単純な政権交代の図式には推移せず、衆議院と参議院の捩れは総選挙ではなく政界再編で問題解決が図られるだろう。衆院の任期はあと2年残っていて、そこでは自民党が圧倒的な安定多数を維持している。新しく総理大臣になる麻生太郎は、恐らく年金問題では全面的に民主党の政策提案に乗り、法案を丸呑みし、年金を国会論議の争点から完全に外すべく動くだろう。そして逆に、民主党の右派と左派で対立する政策争点を前面に出し、国会運営で民主党を二つに割る策に出るに違いない。選挙が終わった後の政治の現場では、年金は背景に下がって憲法が前面に出る。それは新しい政権の組み換えのためであり、政界再編の機動軸としてである。何故なら、今度の選挙で両院に極端な捩れが生じ、その捩れを総選挙ではなく政界再編で解消しようとしたとき、最も有効で分かりやすい対立軸が憲法改正だからであり、これ以上明快な政策対立軸は他にないからである。つまり結論から言えば、自民党と民主党右派が一つの政党に合同する。もしくは連立する。両院で三分の二をはるかに超える巨大な改憲政党(改憲政権)が誕生する。
自民党が勝てそうな予感がしない理由の一つに、2年前の総選挙で活躍した山本一太や世耕弘成の若手の影が薄いことがある。二人のブログを見ても、今回の選対の中枢で戦略的に動いている様子が覗えない。世耕弘成は政権の参謀ではなく政府の役人に丸く収まってしまった。自民党の選挙を仕切っているのは安倍晋三と中川秀直の二人のように見える。2年前の幹事長の武部勤は飾りで、選挙は飯島勲と世耕弘成と竹中平蔵と山本一太が仕切っていた。打つ手打つ手にスピード感とキレがあり、演出がツボにハマっていた。ビジュアルのコミュニケーションがよく、コピーもWEBの使い方も上手かった。安倍晋三と中川秀直の頭脳とセンスでは勝てない。