
現在の日本の擬似的二大政党制の下では、マスコミが風を吹かせた方が国政選挙に勝利する。その勝利は常に一方の側の圧勝の結果となり、決して僅差の接戦劇にはならない。マスコミが吹かす風は、投票日の一ヶ月前頃から始まり、次第に風速が強まり、善玉と悪玉の配役を固め、公示日から投票日にかけて暴風雨となって、その選挙を完全に「お祭り選挙」に変えてしまう。二年前の郵政民営化選挙がそうだったし、今回の年金未記録選挙も同じ現象の再現となった。そして最近の選挙では所謂アナウンス効果が機能しない。アナウンス効果が機能するためには、マスコミの情勢報道に対して反発して動く有力な組織体が全国津々浦々に必要だが、そうした逆バネの物理的組織力が、民主党には最初から存在せず、自民党もこの十年間にボロボロに壊されてしまった。

自民党候補者を支える地域の後援会組織、それは候補者の当選によって齎される経済的果実(パイ)を分け合う利害共同体 - 農協、郵便局、医師会、土建業者などによって構成される - の存在だが、従来は強力な集票マシンとして実力を発揮してきた。それらが十年間の新自由主義の改革政策によって根底から破壊され、無力化され、マスコミが上からシャワーする政治報道に対して下から有効にハネ返すべき抵抗力を失ってしまった。現在の地域農村の有権者の政治意識や投票行動は大都市の住民のそれと同じであり、彼らの投票先を左右する最大の情報因子はマスコミ(特にテレビ)の選挙報道である。中間媒介項がない。マスコミが「今回はこちらの方が多数に支持されている」と教える政党、マスコミが善玉に仕立て、マスコミが「真の改革政党」に演出した方に無党派大衆は投票する。

今回、風を吹かせたのは日経と読売である。風を吹かせた仕掛人は田勢康弘。選挙の序盤戦から報道ステーションなどの報道番組に張り付き、不祥事(松岡自殺・久間暴言・赤城疑惑)が起きるたびに安倍政権の無能と無策を辛辣に批判コメントして、有権者(視聴者)の自民党離れを加速させて行った。田勢康弘がコメントを発する毎に安倍内閣の支持率が下がり、下がった支持率を新聞がすかさず速報し、さらにそれを受けて田勢康弘が安倍批判の舌鋒を鋭くするスパイラルが展開した。田原総一朗と岸井成格が牛耳る「改革ファシズム」のテレビ世界に風穴をあけ、世論を民主党支持へ民主党支持へと誘導したのは田勢康弘だった。田勢康弘のバックには新聞組(朝日新聞・読売新聞・日経新聞)がついていた。今回は日経新聞と読売新聞が最初から最後まで(安倍叩きで論説と世論数値を一貫させて)ブレなかった。

日経新聞と読売新聞が野党に風を吹かせたら自民党は勝てない。今回のマスコミの主導権は新聞組が握った。田勢康弘(日経)と渡辺恒雄(読売)のタッグである。すなわち今回の政治の本当に戦いは、新聞組(田勢・渡辺)と電通組(岸井・田原)との暗闘でもあった。新聞組が勝った。無能で無策で鈍感だったのは安倍晋三以上に電通組(テレビ組)の面々(田原・岸井・三宅・みの)だった。新聞組は一年前から安倍政権を参院選で敗北に追い込む戦略を立てていた。布石は、あの日経新聞がスッパ抜いた昭和天皇のA級戦犯批判のスクープから始まっていた。そしてブログ読者は渡辺恒雄の小泉批判(靖国参拝批判)を思い出してもらいたい。ウィニングストラテジの準備はそこから始まっていた。そして一年間の長丁場の選挙戦の終盤、野球で言えば8回の裏に勝負を決する必殺兵器として戦場に投入されたのが年金未記録問題だった。

田原総一朗と岸井成格が泣きべそをかくように陰謀論を喚いていたが、私は時機を捉えた年金未記録問題の争点急浮上を決して偶然とは考えていない。プログラムされた政治だ。アントニオ猪木のオクトパスホールド、カールゴッチのジャーマンスープレックス、ドリーファンクジュニアのスピニングトーホールド。民主党の十八番が決まったらそこで戦いはゲームオーバーとなる。新聞組はこの戦略兵器を周到に隠していた。そして最後に一撃で決めた。田勢康弘と渡辺恒雄のバックには恐らく奥田碩がいる。今度の民主党大勝の政治を演出したのは、三人挙げるとすれば、田勢康弘と渡辺恒雄と奥田碩で、その政治の目的はズバリ中国である。中国貿易と中国投資の経済利害、日本の国益の要である中国との関係の正常化のための政治。だから、今度の政治が要求しているメッセージは、靖国参拝(A級合祀)を止めて対中関係を正常化することである。
勝利した新聞組と財界左派は新政権(自民党のポスト安倍)に靖国参拝中止あるいはA級戦犯分祀を要求するだろう。それを新政権がのまなければ、総選挙で本当に政権交代まで行き着くことになる。これが今度の参院選の裏であり、簡単に総括すれば新聞組の電通組に対する勝利である。日本の民主主義が安倍反動政治に勝利した政治などでは決してない。選挙を思惑どおりに運んだ日経新聞の本日(7/31)の
社説をご覧いただきたい。