
来週、8月27日に発表される党執行部と新内閣の閣僚人事について、新聞報道を見ながら下のような顔ぶれを予想してみた。今回の閣僚人事の予想は難しい。そして予想するのが面白くない。簡単に考えれば、今度の内閣改造における安倍晋三の最大の目標は支持率向上であり、支持率を最大にする改造人事を考えないといけない。それは本人もよく分かっているはずなのだが、安倍晋三が頭が悪く、客観状況を理解できない人間であるために、その目標を最大限達成する人事を立案実行することができない。新聞報道でアドバルーンが上がっている名前は支持率に寄与しない人間ばかりだ。そして本来、人事は最後まで極秘で伏せていて、そして開示の瞬間にサプライズを起こさなければならない。それが最も政治的に効果のある人事のやり方である。小泉純一郎はそのようにした。

ところが今回、誰々が入閣確定、誰々が役員ポスト決定とだらだらと名前が漏れ出てくる。しかもそれが単なる当て馬ではなく、妙に信憑性があり、安倍晋三本人と派閥との間での調整が新聞紙上を通じて行われているような印象さえ受ける。安倍晋三が人事の主導権を握っていない。自信がないのだ。自信がなく、周囲に耳を傾けざるを得ないのだ。しかし同時に指導力不足と言われるのも不本意でイヤなのである。独断専行と言われたくなく、派閥均衡とも言われたくない。お仲間人事と言われたくなく、旧態逆戻りとも言われたくない。支持率低下に結びつくあらゆる悪評を避けたいのであり、単にそれだけの動機で組閣に向かい合っている。派閥側はそこを見透かして、無能な安倍晋三をコントロールして最大の局面果実を得るべく、政治記者を使って新聞辞令をドライブしているのである。

私が見るところ、今度の人事を動かしている人物は四人いる。安倍晋三、麻生太郎、森喜朗、小泉純一郎の四人である。森喜朗は基本的に安倍晋三の力量を見切っていて、すなわち見放していて、なるべく党と派閥が安倍晋三の無能によって傷を深くしないように、党と派閥のミニマムセキュリティのために手を打っている。次の衆院選での敗北を最小限に抑えるように、そしてなるべく農村地域の利害を政策に組み込んで地方の小選挙区で民主党に勝てるように。それが清和会のボスの森喜朗の動機であり、この路線は各県連を中心に党内で説得力があり、読売新聞を中心とする新聞辞令の政治の主導権を握っている感すらする。森喜朗が今度の人事を派閥均衡型に導く中心に位置していて、このベクトルが権力の中心軸になれば、自民党の政策は竹中平蔵以前の(橋本政権時代の)政策に戻ることになる。

ところが、森喜朗以上に今度の人事に影響力を及ぼしている人間がいて、それは小泉純一郎であり、小泉純一郎は森喜朗とは逆のベクトルで安倍晋三をドライブしようとしている。その動機は改革路線を守ることである。構造改革の正統性を保持し、改革政治の神聖性と無謬性を守り抜くことである。それが小泉純一郎の動機だ。森喜朗は無能な安倍晋三を早く総裁の座から降ろして別の人間を立てたいのだが、小泉純一郎は自分のカリスマで安倍晋三を延命させようとしている。あるいは安倍晋三から麻生太郎へのスイッチを自分のカリスマで実現させ、「改革カリスマ」が包摂する勢力圏の中に前原誠司などの民主党右派を巻き込もうとしているのである。自己の無能をうすうす気づき始めた安倍晋三にとって、小泉純一郎は最も頼れる存在であり、小泉純一郎からの人事の提案に異論を立てることはないだろう。

無論、ベクトルが逆方向だからと言って、森喜朗と小泉純一郎の二人が政治的に対立しているわけではない。目的は一つ、次の衆院選で民主党に勝って自民党政権を守ることである。農村方面には森喜朗がいい顔をして保守票の回復を図り、都市方面には小泉純一郎がいい顔をして改革継続の囁きを続ける。狡知な分業の政治。森喜朗は安倍晋三の後の神輿を町村信孝か福田康夫に変えるべく動いている。小泉純一郎は麻生太郎と谷垣禎一で回すことを考えている。安倍晋三を総理に据えたまま衆院選をやりたくないのは二人とも同じだろう。さて、ブログでは焦点の小池百合子を留任と予想した。森喜朗は小池百合子を外す気で動いているが、おそらく小泉純一郎が小池防衛相留任を支持するだろう。中川秀直が巻き返しに動いているのは、単に安倍晋三の意向だけでなく、背後に小泉純一郎の指示と思惑があるからではないか。
最近、特にテレビで、またぞろ小泉前首相が持ち上げられて報道される例が多い。安倍晋三は無能だが小泉純一郎は有能だったという対照で「改革カリスマ」を持ち上げ、小泉純一郎の政治的能力を絶賛することで、「構造改革」路線を再肯定する世論操作の動きである。しかし考えてみれば、たとえ最終的な結果がどう出ても、安倍晋三が独断でKYな組閣名簿を作るよりも、小泉純一郎に人事を丸投げして、小泉純一郎にサプライズな閣僚名簿を作ってもらった方が、自民党の支持率向上に結びつく確率がはるかに高いだろうとは言えそうである。