「
生活保護受給者、悲鳴と不安」という刺激的なニュースの見出しが、YAHOOトップページの右側トピックス欄に出ていた。紅茶とベイクトケーキで寛いだ時間を送っていた日曜日の午前、異彩を放って鋭く訴えかける
記事に注目せざるを得なかった。PCを立ち上げるとブラウザが開き、ホームに設定しているYAHOOのトップが開く。目的とするページに移動する前、検索をかける前、一度はトピックスに並ぶ7個の見出し文字列に目を落とす。日本中の誰もがそうしている。ネットを生活の一部としている人間は、例外なく同じ行動をしているはずだ。この情報は現在の日本で最も価値の高い報道情報である。どの新聞の一面記事よりも、どのTVのニュースよりも多くの読者がこの情報を見ているから。毎日新聞の
記事を見ると、見出しは「
生活保護引き下げ:受給者、悲鳴と不安」とある。記事が今日(12/9)の毎日新聞の何面に掲載されていたかは分からないが、相当に大きな扱いだったに違いない。
この記事が素晴らしい。記事は12月7日に都内で開かれた市民集会「生活扶助基準に関するもう一つの検討会」を取材したものである。厚生労働省の有識者による「
生活扶助基準に関する検討会」が11月30日に報告書を出し、その中で生活保護水準の引き下げを
容認した。この日の市民集会はその報告書に反論の声を上げたもので、生活保護受給者からの切実な声が上げられている。読みながら、溢れる激情と痛憤の思いが中枢神経系を下から上へと衝き上がってくる。厚労省の有識者検討会は、引き下げ容認の理由として、「低所得世帯の消費支出に比べ、生活保護世帯が受け取っている食費や光熱水費などの生活費の額の方が高くなっている」点を指摘。要するに、生活保護をもらっていない低所得者の生活支出を調べたら、生活保護を受けている受給者の受給額より少なかったから、低所得者の水準に合わせて生活保護の支給を切り下げますよと冷酷に言っているのである。厚生労働省が生活保護予算を削減するために有識者検討会を作って、その結論での報告書を纏めさせたのである。
記事には、この問題についての必要十分な情報が漏れなく書かれている。構成がよく練られていて、明解で分かりやすい。この生活保護引き下げの問題が、小泉構造改革からの社会保障費削減路線の一環である事実が正確に指摘され、06年の「
骨太の方針」で社会保障費の削減(5年で1.1兆円)が数値目標化され、その目標達成のために、今回、生活保護が狙われ、支給削減が断行されようとしている点が明らかにされている。しかし、記事は単に社会的な事実や問題を紹介して解説しているだけではない。この記事には意志と主張がある。ジャーナリストとしての記者の意志と主張がある。その意志と主張が読者である私を興奮させ感動させる。その主張とは告発であり弾劾である。このような冷酷で非情な行政を平気で遂行できる政府と政権に対するプロテストが示されている。そして、記事によって社会の世論を喚起して、このような非道で間違った行政を阻止しようという意志が示されている。生活保護削減を阻止しなければならないという使命感がある。
記者の市川明代と東海林智は、こうした格差と貧困に纏わる社会問題について多くの記事を書いている。ネットで検索すると無数の記事が見つかる。毎日新聞にも心ある記者がいるのだ。そのことを気づかされ、感動して勇気づけられ、応援しなければと思ってブログの記事を思い立った。市川明代の記事こそジャーナリズムそのものだ。同じ毎日新聞の11月30日の
記事には、厚労省の有識者検討会に抗議して市民グループがビラを配っている様子が写真入りで報道されている。この写真がいい。記事には東海林智と市川明代の署名がある。11月27日には「
反・貧困ネット:国会議員に実態語り、法改正を訴え」の石川明代の
記事がある。本日(12/9)の「悲鳴と不安」の記事の中には、問題になっている生活保護削減と最低賃金の問題も論点として落とされていない。今度の国会で民主党の賛成を得て可決成立した改正最低賃金法には、「最低賃金は生活保護との整合性に配慮するするものとする」と明記されていて、要するに、生活保護受給の基準を切り下げることで、最低賃金を低くする口実と条件が与えられる。この二つはセットだ。
労働者の賃金を低く抑え、同時に国家の社会保障給付を縮減する新自由主義政策の根幹とも言えるペアの法制度である。生活保護の基準が切り下げられれば、それに合わせて最低賃金も切り下げられる。最低賃金を下げておいて、今度はまた低所得者の生活実態を理由にして生活保護基準を下げる。互いに互いを理由にし合って両方を切り下げてゆく。それが新自由主義の政策だ。だから、今国会で最も注目されなければならなかったのは最低賃金法の問題だった。民主党は、選挙のとき、あれだけ最低賃金千円を言い、生活第一を言い、格差是正を言ったのに、国会では政府の改正最低賃金法に簡単に妥協して、「最低賃金は生活保護との整合性に配慮する」の規定を簡単に認めてしまった。民主党の労働政策が、労働者の方を向いているのではなく、経団連と厚労省の方を向いていることがよくわかる。民主党は生活保護基準の切り下げには反対だと言っているが、その
言葉がどこまで本気なのかはわからない。この基準は法律で決まるのではなく、省が裁量するものだから。
問題の「
生活扶助基準に関する検討会」だが、メンバーは次のようになっている。座長は慶應大学商学部商学科教授の樋口美雄。他の委員は首都大学東京都市教養学部教授の岡部卓、早稲田大学法学学術院教授の菊池馨実、慶應義塾大学経済学部教授の駒村康平、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授の根本嘉昭の四人。検討会は厚労省社会援護局によって召集され、第1回会合を10月19日に開き、約40日間(5回)の議論で結論を出したが、明らかに「最初に結論ありき」の御用審議会であり、来年度予算編成の日程のために御用学者を急がせて「お墨付き」の形式を整えたものに過ぎない。こんな「検討会」に名前を連ねて、この連中は恥ずかしいとは思わないのだろうか。それとも五人は竹中平蔵ばりの自覚せる新自由主義の前衛闘士なのだろうか。今年の社会保障費の削減目標は2200億円だと言われている。2200億円くらい、防衛費を少しカットすればすぐに捻出できるだろう。辺野古基地の建設を中止すれば、それだけで06年の「骨太」が出した社会保障費削減目標の数字を捻出できる。
市川明代記者と東海林智記者と柴田朗記者、よい新聞記事をありがとう。ブログは毎日新聞社会部の格差と貧困を告発するジャーナリズムを応援する。がんばれ。
【政府、生活保護削減を撤回?】
生活扶助基準額は現状維持 生活保護費で政府方針 と出たが (12月9日22時25分)
産経新聞の記事だから信用できないな。で、明日は朝刊は休みか。
もし本当に闘争勝利だとすれば、市川記者、勝利おめでとう。
バフィーセントマリーの歌がよかった。
Yesterday a child came out to wonder
Caught a dragonfly inside a jar
Fearful when the sky was full of thunder
And tearful at the falling of a star
Then the child moved ten times round the seasons
Skated over ten clear frozen streams
Words like, when you’re older, must appease him
And promises of someday make his dreams
And the seasons they go round and round
And the painted ponies go up and down
We’re captive on the carousel of time
We can’t return we can only look behind
From where we came
And go round and round and round
In the circle game
『ソルジャーブルー』も。 映画の主役はキャンディスバーゲン。
あのポスターの絵がよかった。