
この季節になると、東京でも少し郊外まで離れれば夜空に星が見える。先週の金曜日の夜は南東の天空にオリオン座とシリウスがきれいに見えた。オリオン座の横に大きな赤い星が光っていて、あれはきっと火星だろう。オリオンの外郭対角線、青い星はリゲル、赤い星はベテルギウス。小学3年生のときに図鑑を見て覚えた。青い星は若くてこれから勢いのある星。赤い星は燃え尽きて寿命が近づいている星。福田政権は生まれてまだ3か月しか経ってないのに、燃え尽きて寿命を迎えつつあるような様相を見せている。今日(12/18)の毎日新聞の
記事に世論調査の結果が出ていて、それは二日前の共同通信よりも悪い数字だった。内閣支持率33%。この数字は低い。共同通信は35%。通常、内閣支持率は、共同通信か朝日新聞が最も低い数値を出す。毎日新聞が共同通信よりも低く出たのに驚かされた。明らかに年金問題が大きく影響している。

果たして朝日新聞の調査結果はどう出るだろうか。毎日の調査記事の中で興味深いのは、公明支持層における内閣支持率の減少と不支持率の増加であり、支持率は9月から75%→66%→49%と下がり、不支持率は13%→9%→27%と上がっている。全体の平均で13ポイント下落した内閣支持率は、公明支持層に限っては、それを上回る17ポイントの下落幅を示している。つまり、野党支持層における下落幅よりも公明支持層における下落幅の方が大きいのだ。この点は大いに注目すべきところだろう。公明支持層が福田政権離れを起こしている。このデータからすぐに想起される問題は、1月末の大阪府知事選と1月中旬の新テロ特措法の衆院本会議での議決をめぐる政治である。大阪市長選の投票は一か月前の11月18日だった。このときの公明支持層の内閣支持率は現在よりも17ポイントも高かったのである。加えて候補者の問題もある。

極端に過激な右翼発言を乱発してきた橋下徹が、大阪府の創価学会員から強い支持を受けるだろうか。地盤のない自民党候補が大阪の選挙で勝つためには創価学会の組織票に頼る以外にない。候補者の選定に問題があったように素朴に感じるが、他に選挙対策のアイディアが無いのだろう。自民党がいかにこれまで小泉人気に頼り、マスコミの世論操作に頼り、また民主党との相乗りに頼って選挙をしてきたかが分かる。普通に予想すれば、大阪の学会は今度の知事選では稼動しない。市長選の二の舞となる。福田首相や舛添要一が大阪に入れば逆効果になる。橋下徹のお笑い人気と草の根右翼の票で勝負するしかない。その前にヤマ場を迎える新テロ特措法の議決の方だが、昨日(12/17)の日経新聞にやはり興味深い記事が載っていた。昨日の日経は1面と2面に世論調査の記事を出していたが、2面の調査記事が注目で、そこでは給油新法案について「再議決、賛否拮抗」の見出しが躍っていた。

再議決に賛成が41%、反対が39%。さらに、「インド洋での海上自衛隊による給油活動の再開について」は、賛成が39%、反対が44%で、活動再開に反対が賛成を上回っているのである。日経新聞でこの数字が出ている。賛否の数字が拮抗したのは一か月前の朝日新聞だった。再議決まで一か月、世論はもはや新テロ特措法に賛成へ振れ戻すことはないだろう。余程の政変が起きないかぎり、福田首相には勝算はない。再議決を強行すれば問責決議を可決され、内閣支持率は20%台に低落し、新聞は一斉に福田政権を叩く。解散か総辞職を迫るだろう。新テロ特措法は世論がカギを握る政治だった。世論の賛成が反対を上回る目算が立っていたから会期延長・再議決に及んだはずだ。世論が逆の目に出て、状況不利の中で再議決に突入しても情勢を挽回できるとは思えない。その二週間後に府知事選がある。日経がこの結果を出したのは、福田政権に再議決中止を勧告したサインではないかとさえ思える。

「死に体」同然に見える福田首相がわずかに生きている証としては、1月の通常国会前が噂されている内閣改造だが、その程度のアクションで支持率回復に繋がるかどうか大いに疑わしい。前に書いたが、福田首相の戦略は専ら低姿勢作戦で、民主党に対してひたすら平身低頭で臨み、哀れさを誘って巧みに政策協議と連立協議へ持ち込むことだった。衆参ねじれの現状では他に妙策がない。ところが、防衛省疑獄に続いて薬害肝炎の問題が噴出し、さらに年金問題まで火が燃え広がって、マスコミは政府批判を先鋭にせざるを得なくなり、福田首相のために「立法府の機能不全」のプロパガンダを散布する余地が完全になくなった。福田首相にとってそれが誤算だと言うのなら、福田首相の政局判断はあまりにも甘すぎる。年金問題はいつか嘘がバレるのは分かっていたはずで、噴火するタイミングとしては12月だっただろう。舛添要一や町村信孝の口調を聞いたかぎりでは、連中は国民をゴマカシて通せると思っていたフシがある。

夏の参院選は年金選挙だった。争点の第一は年金問題で、それが争点になったばかりに、安倍晋三は惨敗して政権を追われた。二年前に小泉自民党に入れた保守層が民主党に鞍替えした。年金が争点になったからである。年金問題が浮上する前、安倍晋三には順風が吹いていた。3月の都知事選でも無難に勝った。その前の沖縄知事選でも野党統一候補を抑えて自公が勝利した。「あの年金問題さえ出なければ」というのが安倍晋三の率直なところだろう。年金問題が政治の前面に浮上すると、世論は自民支持・民主支持の区別がなくなる。垣根が取り払われる。民主党には年金カリスマの長妻昭がいて、彼の年金政策の言説は常に国民の方を誠実に向いている。どの支持層に向けての発言とか、そうした政治性は一切無縁だ。だから、党派を超えて、国民一般から信用され支持されている。国民は長妻昭の年金論議を信用していて、自民党を信用していない。自民党支持者でも年金問題になれば長妻昭の話に耳を傾ける。当然だ。
年金の選挙公約で嘘をついた自民党は責任をとるべきだ。国民に謝罪した上で内閣総辞職するべきである。福田首相も、安倍晋三の嘘を自分が尻拭いさせられるのは不本意で迷惑な話だろう。潔く内閣総辞職して、政権を民主党に渡し、長妻昭に年金対策を委ねるべきだ。
【補 遺 - 民主党】
が、しかし、年金についての自民党と安倍晋三の選挙公約が真っ赤な嘘だったことは最初から分かっていたことで、そしてまた、参院選では年金が最大の争点であったわけだから、臨時国会が始まったそのときから、民主党は年金記録問題を国会論戦での第一の争点に据えて、閉会まで時間をかけて議論を詰めて行くべきだった。国民は秋の国会に「宙に浮いた年金」の問題の解明と解決を期待していたのだ。
だから、週末の政治番組に出る顔も、民主党は長妻昭が出てきて、厚労大臣の舛添要一と対決・論戦する図をわれわれは期待したのである。それなのに、小沢一郎は無用なISAFの自衛隊派遣などを突然繰り出し、国会の論戦を給油とアフガン問題一色にしてしまった。週末にテレビを見ると、そこには長妻昭ではなく浅尾慶一郎の顔ばかりがあり、小沢一郎が投じた一石の尻拭いのような話ばかりをさせられていた。
今頃になってようやく国会で年金問題の本格議論。年末も押し詰まって長妻昭と舛添要一の二人がやり合っている。この辺のところは天木直人が何度も言ってきたことだから、繰り返す必要もないが、民主党が最初から国会で年金問題にフォーカスしていれば、社保庁の連中ももう少し早い時期から緊張感を持って、「宙に浮いた年金」の調査をやっていたのではないか。NHKの昨夜の特集番組を見ながら、そう思わされた。
夏の選挙のときは、民主党はテロ特措法やアフガンの話など何もしていなかったではないか。年金と生活と農家最低所得だったではないか。いわんや大連立など。民主党の政策と国会対策を私物化した小沢一郎の罪は大きい。公約違反と民意無視は半ば民主党も同罪だ。

【補 遺 - 舛添要一】
それにしても、舛添要一の凋落ぶりは見るも無残な感じがする。これでも元国際政治学者。慣れない官僚言語を駆使して責任と納期の明言を逃げ、曖昧・ウヤムヤ・無責任の答弁を繰り返している。舛添要一の「人気」が果たしてどの程度のものだったかは知らないが、実際のところは国民の間での支持と信頼を大きく失ったことだろう。官僚上がりが官僚政治家になっても誰も咎めないが、評論家上がりが官僚政治家の真似をすると途端に国民は嫌う。
国民の間で人気を失ってもいいという腹が舛添要一にはあるのだろう。あの選挙の後で自ら進んで厚労大臣になりたい人間はいなかった。野党から参院の委員会で年金問題で徹底追及を受けるからである。そしてバレた大嘘の後始末をやらされることが見えていたからだ。それなのに、舛添要一は喜んで火中の栗を拾いに行った。自分の「人気」と「詭弁能力」を過信したのと、自民党の中で出世したかったからである。舛添要一は参院でわずかに2回当選のみ。
議員のキャリアとしては平社員同然の身で、普通は大臣なんかになれない。参院政審会長も考えてみれば異例の抜擢だ。それだけ自民党に人材がいないということでもある。大臣になりたい。幹部になりたい。総裁選に出たい。そういうことだろう。舛添要一も来年で六十歳。テレビ出演の人気で成り上がる時期は過ぎ、自民党の組織の中枢に入り込んで、組織の幹部として偉くなろうと考えているのだ。うまく泳ぎ渡れば参院で青木幹雄の後釜に座れる。参院の首領の地位を襲える。
だから、年金と薬害の矢面に立って、国民の怒りと憎しみを一手に引き受ける衣川の弁慶の役を演っているのだ。人一倍プライドの高い東大政治学者がご苦労なことだ。そう言えば、小沢一郎と舛添要一は政治改革の同志で、政治家と政治学者で車の両輪の如くだった。政治改革の車輪を右側から押して回していたのがこの二人だった。
