2008年経済予想 - 原油50ドル、NY株1万ドル、東証8000円
b0087409_12582454.jpgNYの原油価格が100ドルを突破。今年の企業のトップの年頭訓示はこの話題で一色だろう。経営者団体の賀詞交換会の挨拶も、この問題でもちきりになるに違いない。一か月前に原油価格の崩落を断言した立場としては、予想が完全に外れた格好となり、面子丸潰れで、正直なところ忸怩と赤面の思いを隠せない。ロングレンジで原油動向を観察予測すれば、ダウントレンドは間違いないと現在でも確信しているが、87ドルまで下がったWTIの価格が12月下旬から再び上昇傾向に転じたときは、俄に首を捻ったし、100ドルの境界が突破された事実に対しては、率直に一か月前の見通しが甘かったと反省せざるを得ない。新聞は、朝日も日経も、ヘッジファンドの投機マネーが商品市場へ流入したことが原因であると書いている。これは従来からの見方と同じで、アナリストの全員が異口同音にする解説で、昨年8月から続いている金融市場から現物市場への資金移動のストーリーである。



b0087409_136142.jpg専門家の全員が同じ分析をするのだから、門外漢の者がそれに異を唱えても仕方ないが、ヘッジファンドの投機マネーによる商品市場流入の説明だけでは簡単に納得できないところがある。まず第一に、本当にヘッジファンドにはそうした余剰資金が大量にあって、原油相場を高騰へと動かせるのかという疑問がある。住宅ローン債権で巨額の損失を出しているのは、シティやメリルのような大手の金融資本だけでなく、ヘッジファンドと呼ばれている投機資本も同じはずだ。仮に彼らが資金を動かせて先物原油を買ったとして、そして抱えているモーゲージの不良債権にバランスする資本を原油先物で積んで引当計上したとして、原油価格が下がったら資本の引当は引当にならず、すなわち損失がそのまま出る。赤字が出る。金の現物にマネーを入れるのはまだ分かるが、現時点の原油は投機の対象としてリスクが大きすぎるのではないか。いずれにしても、どこかで売り抜けがあるはずだ。

b0087409_12584535.jpg昨年末のニュースでは、ロンドンのシティの映像が出て、欧州の金融機関が、企業の資金繰りに対応するべく年越しの当座資金が必要なのに、従来のように金融機関同士での貸し借りができず、つまり、貸す側が相手先の隠れた不良債権(住宅ローン債権)の保有を疑い、資金回収のリスクを回避するために、民間の金融機関の間で資金の流れが止まった現状が報告されていた。まさに信用収縮。これに対処するために欧州中央銀行が3486億ユーロ(57兆5190億円)の大量の資金を供給している。これだけ収縮が起きてマネーの動きが止まっているのだから、原油市場に投機マネーが流れ込むはずがないと思っていたが、どうやら観測が甘かった。自分なりに今回の流動性について説明の理由を考えれば、一つは、NYSEの下落であり、すなわち株を売ってその資金で原油を買ったとする見方で、もう一つは、中東のオイルマネーがヘッジファンドを通じて原油価格維持に動いたとする説明である。

b0087409_12583598.jpgどちらも自信がない。だが、ダウが下落することは原油バブル崩壊を記事にしたときも予想していた。これは誰でも同じ予想をする。米国の企業は、クリスマスが終わったら新年のビジネスプログラムをすぐに始動させる。計画は年末までに立て終えている。新年と同時にスタートダッシュする。だから、もしファンドがマネーをNYSEからNYMEXに移し変えたとしたら、これは年末に立てた計画の実行なのだ。もう一つのオイルマネーの還流と高価格維持の疑いだが、私は前の記事で、チャベスやアフマディネジャドがそんな愚行をするはずがないと論じたけれど、少なくともチャベスは原油価格の高止まりを望んでいて、「原油はワインと比べれば安い」などとくだらない事を言って高値維持に躍起になっている。私が不安を掻き立てられる材料は、年末の「サンデーモーニング」でも紹介されていたが、ドバイの政府系ファンドの動きで、そこがモーゲージで潰れかかったシティに巨額の資本を入れて立ち直らせたという情報だった。

b0087409_1259457.jpg日本でも、みずほFGがサブプライムで出した損失(1700億円)をすぐに増資(証券発行:2745億円)で自己資本をカバーしたが、桁違いの巨額損失を出しているシティやメリルやモルガンに対して、何と、ドバイやアブダビの政府系ファンドが出資して自己資本を充填してやっているのである。これではハゲタカは潰れない。モーゲージでの流血をオイルマネーの資本注入で輸血しているのだ。ドバイ政府には、ハゲタカへの出資をやめて、ぜひ中国株とインド株に投資するようお願いしたいが、同じ事は、オイルマネーだけでなく、世界の工場となって巨額の貿易黒字を出している中国もやっていて、中国の政府系ファンドがモルガンに出資し、さらにメリルへの出資を検討している。シンガポールもシティに出資。オイルマネーと中国マネーが還流したら、どれほど住宅ローン債権で激しく流血しても、米金融資本は五体満足なままで、そのマネーを自由に運用して、金でも穀物でも原油でも、好きな市場でバブルを増殖させることができるだろう。

b0087409_12585590.jpgもう一つ、コメント欄でも指摘があったが、ドル安の進行で原油のドル建て取引に割安感が出ている点がある。この点は、田中宇も前に記事の中で説明していた。単純な投機による高騰ではなく、ドル安によるドル表示での価格高騰という問題。と言うことは、さらに大きく円高に振れれば、日本経済はこの原油高騰のインパクトを多少とも吸収することができる。原油の価格が20%上昇しても、為替が20%円高になれば、日本の原油輸入コストは変わらない計算になる。原油コストと穀物コストの打撃は日本経済にとって痛手が大きい。日銀は円高ドル安の方向へ通貨政策をシフトするべきだろう。米国への製品輸出で外貨を稼いで経済を回す時代はもう終わりだ。パラダイムをチェンジしないといけない。今後の主要な製品輸出先はアジアの新興国。米国への輸出を減らして貿易黒字も減らす。穀物輸入を支える程度の黒字でいい。ドル安と原油価格の問題については、また別の機会で考察しよう。今回は、懲りずにまた経済指標予測をする。

b0087409_12592342.jpgまず米国株だが、昨日の終値が13.056ドル。今年中に10.000ドルを切る。原油は、今年中に1バレル50ドルの水準に落ちる。東証は、今年中に8.000円まで下がる。カギは米国株と原油だが、米国株が上がると予想している人間は世界中に一人もいない。下げ幅だけが問題となる。株を資産で保有している米国の企業や市民は、貯金を取り崩すように株を売却して経営や生活に充当する。米国経済はリセッションの時期に入る。今度のリセッションは長く続く。エコノミストの間では5年を超える長期の可能性が予想されている。もし、原油に代わる新たなバブル市場を見つけられなければ、その5年の間にドルが国際基軸通貨の地位を失うことになる。原油も必ず下がる。週刊ダイヤモンドの最新号では、「原油は投機資金一服で70ドル台」と予測が出ていた。原油市場の半分が投機マネーなのだから、投機が引けば価格は半額になる。例えば、中国で過熱する景気に沈静化の気配が見えたとき、それを引き金にして原油市場は下げに転じるはずだ。

b0087409_1383011.jpg東証だが、8.000円に下落しても不都合はない。現在の東証は取引の60%が外国資本によるものである。そして現在の東証は、言わば昔の東証と大証のような関係で、今のNYSEと東証がリンクしている。同じ投資主体が、NYでマネーを回し、半日後に東京の市場で回している。そして彼らは、あれだけ腐るほど儲けさせてもらいながら、今では東証では利益が上がらないと不満を言い、上海やシンガポールやバンコクに拠点を移したいと言い出している。彼らとはハゲタカのことだ。啄ばむ死肉がなくなったから、ボロ儲けの材料が日本になくなったから、羽を広げて急成長するアジアの新興国へ飛び立とうと腰を浮かせているのである。結構なことだ。早々に立ち去ってくれればいい。外資が引き上げるから東証の株価は下がる。米国の企業というのはシンプルでドライである。地域貢献のために事業をやっているのではない。そして経営においてはスピードを重視する。ショートタームのリザルトとプロフィットにフォーカスする。東証はNYSEより大きく下がる。

為替は、1ドル80円と予想しておこう。原油は50ドル、ダウは10.000ドル、東証は8.000円、為替は1ドル80円。

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【社会科学再論】

私の大学時代の教育環境では、大塚史学は「もう古いもの」では決してなく、現役の社会科学のスタンダードであり、それを無視して通過することは許されなかった。私の大学が、60年代の学問環境を密封保存している場所だったから、幸か不幸か、社会科学を学ぼうとする者は、日本社会科学のスタンダード(講座派経済学・大塚史学・丸山政治学)に正面から取り組まされたし、一人の学生としてそれらを学ぶことは面白かったし、現在でも悪くなかったと思っている。それら戦後の日本の大学で学生が学んだ日本社会科学のスタンダードというのは、江戸時代の私塾や藩校で言えば、孔子の「論語」であり、孟子の「大学」であり、すなわち四書五経であり、彼らはそれら古典と格闘して、武士の倫理思想や行政理論を修め、藩領での経世済民の実践に臨み、また幕末は外圧からの防衛と国家の革命に奔走したわけで、すなわち時代が変わっても、基本的に知識人の生き方は変わらないものと私は思う。

日本の社会科学は日本人が作らなければならない。この二十年間、日本のアカデミーは、日本の社会科学を発展させることをせず、それを壊し、貶めることばかりやってきた。解体脱構築に耽っていた。国民主義否定と近代主義否定の呪文を唱えることばかりエネルギーを注いできた。その結果が、ゆとり教育と学力低下であり、新自由主義の素通りとやりたい放題であり、政治改革の失敗であり、利己主義の放置放任と凶悪犯罪の増加である。新自由主義と脱構築主義は同じ一個のメダルの裏と表だ。脱構築主義はまさしくグローバリズムそのものではないか。日本否定。酒井直樹、ハルートゥニアン。新自由主義をここまで跋扈させた責任は日本のアカデミーにある。マルクス主義から自己欺瞞的に脱構築主義に転向して、趣味と処世と出世と商売に逃げてアカデミー官僚になった左翼の知識人にある。「論語」も「大学」も古くはなっていない。学べば汲めど尽きせぬものがそこにある。孔子も仏陀も常に新しい。

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by thessalonike4 | 2008-01-04 23:30 | 田中宇と世界金融経済
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